べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『ブラッド・ブラザー』ジャック・カーリィ

 

ブラッド・ブラザー (文春文庫)

ブラッド・ブラザー (文春文庫)

 

 2010年、第10回本格ミステリ大賞で行われた<海外優秀本格ミステリ顕彰>で『デス・コレクターズ』が選ばれた、アメリカの作家ジャック・カーリィのシリーズ第4弾。

アラバマ州モビール市(架空の都市らしいですが、モービル市のことかと)の警察に勤務する、カーソン・ライダーとハリー・ノーチラスを主人公にした警察小説のシリーズは、『百番目の男』『デス・コレクターズ』『毒蛇の園』『ブラッド・ブラザー』『イン・ザ・ブラッド』と5作が発表されています。

私はほとんどディーヴァーを読んでいないのですが、敬愛する法月綸太郎氏が賛辞を述べていたので、『デス・コレクターズ』をまず読みました。

警察小説の骨格を使って、サスペンス色の強い本格(パズラー)をやるとこうなるのか、というのは、いくつかディーヴァーを読んで思いましたが、なんといいますか……ディーヴァーは長いんですよね。

嫌いではないんですが。

そこをいくと、カーリィは、ちょうどいい感じの長さ(短さ)でした。

軽妙な会話も面白いですし(アメリカンコメディが好きなんですね)。

昔、ハンドラーを読んだときに感じたような洒脱さ(あそこまでではないですが)を発見しました。

第1作『百番目の男』は、稀に見るバカミス(※褒め言葉)で、脳髄やられましたが、『デス・コレクターズ』はかなり硬派な造形でしたね。

主人公のカーソン・ライダーは、モビール市警の刑事で、相棒のハリーとともに<PSIT(精神病理・社会病理捜査班)>としても活動しています。

日本で言えば『相棒』のような、ということです(もっともカーソンとハリーは、通常の事件も捜査するのですが)。

この設定がまず、日本人にも響きやすかったのでしょう。

<PSIT>は、<piss it>に通じる、ということで「くだらない」と揶揄されているのです(「piss」は「小便」のことです)。

異常な犯罪の捜査で成功を収めているのですが、あまり認められていない、という位置ですね。

加えて、カーソンの兄はシリアルキラーで、今は精神異常者を矯正させる(という名目で社会的に隔離する)施設に収容されています。

暗い背景も、人種問わず、主人公として求められる素質でしょうか。

 

 

本作『ブラッド・ブラザー』では、過去作では印象的な登場(『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターのような)はするものの活躍はしない、カーソンの兄ジェレミーが、アラバマから遠く離れたニューヨークで(暗い)大活躍をする、という物語です。

ジェレミーの収容されていた施設の有能な心理学者が、ニューヨークで惨殺屍体で発見されます。

彼女はなぜか、カーソンに宛てたビデオメッセージを残しており、そのためにカーソンはニューヨークまで呼び出されます。

カーソンは事件には確実に兄ジェレミーが関わっている(しかも、収容施設を抜け出している!)ことを悟りますが、自分が重要容疑者でシリアルキラーの弟ということはごく一部のものしかしらず、もちろんNYPDの刑事にも内緒にしています。

完全アウェーの中で、ジェレミーが好みそうな殺人事件が連続して発生。

折から、ニューヨークでは次期大統領と目される女性議員が党大会に参加しようとしていた。

やがて、女性議員のところには、脅迫めいた人形(マトリョーシカ)が送りつけられるようになる。

女性に対して特別な敵意(殺意)を持つジェレミーが、女性議員にも手を伸ばそうとしているのか。

 

 

解説は、巻末やらネットの書評やらにおまかせして、感想を。

単純に、よく練られたパズラーだと思いました。

一方で、人間関係を考えると、ちょっとご都合主義的なところが目立ち、悪く言えば日本の2時間サスペンスのようでした。

いえ、嫌いじゃないです、物語はすべてご都合主義でできていますから。

ただ、これだけの筆力があるのですから、もうすこしそれっぽさを消せたのではないかな、と。

まぁ、どんでん返しやショッキングな秘密というものは、うまく使わなければ手垢のついたトリックにしかならないので、よほど伏線を丁寧に張っていないと「おいおい」と思われてしまいます。

あとは、ハリウッドの影響なのか、アメリカらしいのか、もともと大衆に向けられた物語がそういうものなのか、主人公がどうして毎回毎回、こうも女性のことでぐちぐちしているのか(今回は比較的マシですが)。

それが嫌ならディーヴァーのリンカーン・ライムものでも読めばいいのでしょうか。

日本人には、というか私にはあまり理解できない部分です(『男はつらいよ』を見たことがないのですが、なんかあっちのほうが肌に合う気がします)。

いや、むしろジェレミーとの関係から、カーソン君は女に翻弄されなければいけないのかもしれませんね。

しかし、何と言ってもジェレミーです。

暗く魅力的なサイコパス

やっぱり、いいキャラ造形だな、と思いますもの。

そして、カーソンを憎みながらも愛している、という感じがまた素敵。

腐女子に受けそうなネタです。

 

 

翻訳が苦手なかたも多くいらっしゃると思いますが、アメリカの連続ドラマを吹き替えで見るような疾走感とオシャレ感が味わえますので、ご興味あれば。

 

 

兄は本人が異常であるだけでなく、他人の狂気を測定できるガイガー・カウンターだった。(p35)

 

 

本当にジェレミーのような人がいたら、友達にはなりたくないでしょうね。