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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン

読書

 

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 
ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

バランスをとるために、小説とそうでない本を適度にまぜまぜしながら読んでいます。

まさか自分でも、ノーベル経済学賞を受賞した方の本を読むとは思いませんでしたが。

本書は、日本語版の副題「あなたの意思はどのように決まるか?」とあるとおり、人間の意思決定プロセスを、認知心理学行動経済学の実験を通して明らかにしよう、というものです。

特に、最近では珍しくない概念である「バイアス」(偏り)と、「ヒューリスティクス」(簡便な解決への道筋)について、いくつもの例をあげながら面白く解説しているので、認知心理学に興味のある人は一読されるといいかと思います。

本書では、仮定のものとして、人間が情報を処理するときに立ち現れる「システム1」と「システム2」が登場します。

「システム1」は直感的で自動的に作用するもので、人間は情報を入力されるとほぼ間違いなくなんらかの処理を行うのですが、瞬時に、それほどの思考を伴わず処理をするのが「システム1」の特徴です。

一方の「システム2」は、「システム1」が処理しようとした情報に対して注意を払い再検討を促すものです。

特徴的なのは、複数のタスクを同時に処理することが苦手で、しかも「怠け者」(できればさぼりたい)であること。

なるほど、そう説明されると、自分の迂闊さや自己制御力のなさ、自己弁護に走る傾向をあらためて振り返ることができます。

話の全てが興味深いのですが、個人的に面白いと思ったのは、「ネガティブな情報」に対する反応についての部分です。

進化の過程で獲得したものと考えられる「ネガティブなものに注目する」という、本能というか「バイアス」。

素早く「獲物」を見つける能力と、素早く「敵」を見つける能力、どちらが生存に適しているのかといえば、おそらく「敵」を見つける能力でしょう。

「敵」というのは、「獲物」に比べればネガティブな情報ですが、重要であることは間違いありません。

「敵」を見つけて遠ざかれば「獲物」は手に入りませんが、生き延びる確率は上がります。

「獲物」を見つけて近づいて「敵」を見つけそこなえば、一瞬の幸せの後で終末が待っていることでしょう。

つまり、我々は、根本的に「ネガティブな情報」に注目しやすいのです。

人のいいところに気づかず、悪いところばかりに目がいってしまうのは、持って生まれたもの。

なるほど……と目から鱗が落ちた気分です。

たくさんの実験と、たくさんのエピソードで、自分の「バイアス」が試され、そして読み終えた後でも結局たくさんの「バイアス」に支配されていることに気づき、愕然とします。

自己を変えることを恐れるせいなのか、間違っていることに目を向けまいとしているのか。

精神安定上よろしくないこともしばしば書かれていますが、それでも、我々は不断の決断を下して生きていかなければならない、ということだけはわかりますので、怠け者の「システム2」をうまく活用していけたらな、と思いました。

何かに行き詰まったときは、この本を読んでみようかな、と。

ヒントがあるかもしれませんから。

 

 

「ある瞬間が記憶に残るとか重要な意味を持つといったことは、事後にのみ決定される。「永久に忘れないわ」とか「これは人生で最も重要な瞬間だ」といった発言は、まちがうこともありうる約束か予言として受け取るべきだ。しかもまちがうことは多いーー本気で心から発せられたとしても。私たちが「絶対忘れない」と言ったことの多くは、10年後にはとっくに忘れ去られていると考えるべきだろう。」(p317)