べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『闇の喇叭』有栖川有栖

 

闇の喇叭 (講談社ノベルス)

闇の喇叭 (講談社ノベルス)

 

 『闇の乱波』だったら、こりゃ加当段蔵でも主人公にした忍者ものかと勘違いしますが、日本新本格界でもっとも流麗な文体を誇る有栖川有栖先生の新シリーズでした。

 

第二次大戦後、南北に分断された日本(第三の核爆弾が京都に落下したのです)。

北海道は独立国家<日ノ本共和国>となり、ソ連統治下に入った。

平世21年、日本では私立探偵による探偵行為を禁止する法律が制定されており、探偵は国家のものとなっていました。

そんな中、名探偵と言われた両親を持つ女子高生空閑純の地元では、身元不明の他殺死体が発見されます。

謎の美女、北のスパイ暗躍を疑う地元の名物オヤジ、東京から派遣される中央警察(県警の枠を超えて捜査をする警察)……そして合唱部の友人の家族も巻き込まれ始める中、純と父は禁じられた私的探偵行為を開始します。

 

パラレルワールドの日本を舞台としながら、SFではなくミステリ、とおっしゃる有栖川先生。

エンターテインメント小説は、その始まりからジャンルなどものともしないものだったわけですが、個人的にあらゆる物語には<謎>が必要だ、と思っています。

ストーリー(この先どんな展開が待っているのだろう)は、いかなる物語も持ち合わせています。

プロット(結末がわかっている物語をどう展開させるのだろう)も、ストーリーテリングの一手法として<謎>を包含しています。

これらの<謎>に加えて、ミステリというものは、素材自体に<謎>を含んでいるので、二重の<謎>といえるでしょう。

そして、フィクションそのものが、すでに一つのパラレルワールドですから、そのパラレルワールドはすでに我々からは二つ分離れた世界です。

SFは「サイエンスフィクション」ではなく、「スペキュレーティブフィクション」だとするなら、パラレルワールド(二つ離れた世界)を描くものはすでにSFです。

「そのパラレルワールド」は「どんな世界なのか」という<謎>、そして本格ミステリとしての<謎>が、同時並行的に明らかになっていく、という二重の展開は、なかなか背中にぞくっとくるものです。

世界そのものを最初から作ってしまう(例『指輪物語』)ファンタジーを「ハイ・ファンタジー」、よく見知った世界をベースに構築されるファンタジー(例『ハリー・ポッター』シリーズ)を「ロー・ファンタジー」とも呼ぶそうです。

すると、パラレルワールド本格ミステリは「ロー・ミステリー」でしょうか(いやいやいや)。

『闇の喇叭』の世界は丁寧に造形されており、そこここで感じる自分の世界との違和感が、とても小さなものながら、はっとさせられて、現実をふと確かめざるをえない不安に追い込まれるような気がします。

 

芦辺拓先生の『時の審廷』を読んだあとでこれを読もうと思ったのは、『時の審廷』でも「日本分断」に言及されていたからです。

もっとも、『闇の喇叭』は二年ほど積ん読だったんですが。

そして、有栖川先生のジュブナイルが読みたくなったのです。

デビューからして、『月光ゲーム』が上質のミステリであると同時に、日本におけるエラリー・クイーンの衣鉢を継ぐものの登場であり、そしてまた(極めて日本的に)ジュブナイルでもあったのですから、有栖川先生の描くジュブナイルは心地よく、そしてとても切ない。

こんなことは、私の人生や学校生活では起こり得なかっただろうに、懐かしく感じられるのは、パラレルワールドだからなのかもしれません。

 

シリーズはすでに3作まで発表されており、どんな結末に向かうのかを久々に追いかけたくなりました。

ので、そのうちに第二作『真夜中の探偵』も読みたいな、と思います。

 

 

「よその国を荒らせる政府は、自国民も粗末にできるんや。先生は『歴史を学べ』が口癖なんやて?そら歴史を担当してるんやから、言うわな。せやけど、歴史を学ぶということの意味がわかっていない」(p71)

 

 

 

 

そうそう、アマゾンを検索したらありました。

 

 

ヤミの乱破(1) (KCデラックス イブニング )

ヤミの乱破(1) (KCデラックス イブニング )

 

 

『ヤミの乱波』。

細野さんでしたか(そして講談社、と)。