ジェフリー・ディーヴァーに次ぐアメリカ発どんでん返しミステリの名手ジャック・カーリィの<カーソン・ライダー>シリーズ最新作。
この間出たばっかりですね。
かつて自分の兄が収容されていたアラバマ逸脱行動矯正施設で、モビール市の刑事カーソン・ライダーは、ある収監者の退行催眠実験に立ち会っていた。
エクストリームファイトを専門とする格闘家クレイラインは、かつて自分を負かした相手を深い縦穴に拉致監禁したのだった。
連続殺人犯の兄を持つライダーはその経験から精神病理・社会病理捜査班に身を置いており、その経験からクレイラインへの退行催眠は危険だと考えていた(そもそもかからないだろうと)。
しかし、催眠は見事にかかり、結果クレイラインは拘束をぶち破って大暴れすることになった。
刑務所に戻されるクレイラインの護送車を何者かが襲撃し、クレイラインは逃走、以後数ヶ月にわたって発見されていない。
そんな状況下ではあったが、繰り返される事件が日常になりつつあるのを感じたライダーは、何年かぶりの休暇をとってケンタッキー州東部の山にやってきていた。
幸運にも、子供の頃に訪れたその地のキャビンの無料招待が当たったのだ。
そこで、岸壁をクライミングしたり、山道を散歩したりして過ごしていたライダーの電話に、捜査機関と思しき女性から連絡が入る。
身に覚えはないものの、助けを乞うている女性が告げた場所に出かけたライダーは、拘束されて尻の穴に発熱したハンダゴテを突っ込まれている異形の屍体に出会い、そして現地の警察機関に拘束されることになった。
屍体の場所は、インターネットとGPS時代の宝探しジオキャッシング(宝を隠した座標をサイトに投稿し、情報に気づいた人物がそれをGPSで検索しながら探しに行くという遊び)に投稿されていた。
そこには、現場を示す座標と、「=(8)=」という謎の記号が残されていた。
極めて現代的な「ジオキャッシング」という遊びが、殺人犯に利用されるという点で、この物語がいつか古びてしまうことを示唆していますが、ミステリというのは常にテクノロジーとの争いでしたので致し方ないでしょう。
携帯電話の普及が、アリバイトリックを過去のものにしたかと思いきや、ミステリ作家たちはこの新しいデバイスにも果敢に取り組みました。
インターネットも、スマートフォンも、そうやってミステリに取り込まれ、トリックの餌食になっていくのです。
それはともかく。
本作では、休暇先で事件に遭遇する、という「名探偵の受難」と、古典的とも思える「暗号」が登場し、本格ファンは期待が高まるというものです。
登場するケンタッキー州の女性刑事とのロマンスも、いつもとはちょっと違った展開でよかったのではないでしょうか。
ストーリーはいつも通り(?)の連続殺人と、彼らをつなぐミッシングリンクの発見、そして意外な犯人と、それほど長くはない物語ですが詰め込まれ感が半端ではありません。
満足。
それにしても、名探偵はどうして休暇中でも事件に巻き込まれるのでしょう。
1)物語の要請。
そうでないと、お話にならないから。
2)名探偵自身が、事件を呼び寄せている。
阿部川キネコ先生の『ビジュアル探偵明智クン!!』でも登場します、行く先々で事件を巻き起こす悪魔のような探偵が……。
ビジュアル探偵明智クン!! (1) (まんがタイムKRコミックス)
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(キネコ最高ー!!)
本作に限っては、事件に巻き込まれた理由がしっかり存在していますので、わりと納得できます(強すぎる切り札がある物語というのは。便利ではありますが、一方でご都合主義すぎてしまうから難しいものですが)。
残念なのは、いつもの作品と違い、会話の洒脱さがちょっと後退しているところでしょうか。
舞台がケンタッキーだからいけないのか……(偏見)。
巻末の作品紹介をぼんやり見ていたら、『百番目の男』が映画化、と書かれていました。
……え、あれを?
かなりドキドキします(が、日本じゃやらない気がします)。
「場所がどこにしろ、都市部からかなり離れた収入の低い土地の集団は身を守る様式として作法を学ぶーー”支配者たち”が自分の話す情報をどう使うかがわからないときは、バカなふりをするのが最善の策だと。持てる者にとって知識は力。貧しき者にとって知識はたいてい背中につけた的となる。」(p124)