べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『聯愁殺』西澤保彦

 

聯愁殺 (中公文庫)

聯愁殺 (中公文庫)

 

 

いっとき、西澤保彦さんの<タック&タカチ>シリーズが大好きで、ほぼ読んでいると思いますが、それ以外の超能力もの系とかは全く読んでいない私です。

で、『聯愁殺』。

 

四年前、自宅マンションに帰宅したOLが襲われる、という事件があった。

幸いOLは一命をとりとめたが、犯人が残したと思われる手帳には、OLも含めて四人の名前が記されていた。

そのうち三人は、すでに殺されていた。

そう、その手帳は連続無差別殺人のターゲットを書いたものだったのだ。

最後の被害者であるOLの殺害に失敗した犯人はその場から逃走しており、以後行方は知れなかった。

それから四年。

OLは、推理作家を始めとする謎解き集団<恋謎会>の面々に、あの事件の真相解明を依頼していた(当時担当だった刑事を通じて)。

推理作家、元刑事、犯罪心理学者が集まる<恋謎会>は、果たしてその謎を解明することができるのだろうか。

 

といった感じで、これだけ書くとバークリィの『毒入りチョコレート事件』みたいな、いくつもの解決が提示される「あれ」なのかな、と思いました。

と思ったら、解説の氷川透氏(最近御作を見かけないけれど、お元気だろうか)は、プラスすることのデクスターなのだ、と書いておられます。

なるほど、バークリィとデクスター……コリン・デクスターをご存知の方はどのくらいいらっしゃるかわかりませんが、私は好きで読んでいました(どこまで読んだかな……『カインの娘たち』を読んだかどうか覚えていません)。

この人、とにかく変な人で、変な仮説をひねり出してはそれに翻弄されまくるモース警部という名探偵を登場させて、いったい事件をどうしたいのかさっぱりわからないうちに、なんだかよくわからない結論が飛び出してくる、という離れ業をやってのけるパズラーなのです。

もともと西澤保彦氏は、『彼女が死んだ夜』でもそうですが、事件の解決を出しては否定し出しては否定し、という過程を描くことで、本格ミステリを地に足のついたものにした、というのが私の印象です(だから、名探偵は必要なく、「名探偵ユニット」が必要だった、と当時は思っていたものです)。

トリックではなくロジック、パズラーなのです。

そう思って読んでいったら、いったい話がどこに収束するのかがわからない……あれ、これだと『毒入りチョコレート事件』になるのか……いや、それにしては<恋謎会>の面々が第三者すぎる……ああ、それか……とひさびさにプロットに戦慄しました。

操作としては非常に単純なのですが、それだけでああもあっさり騙されるものか、と。

そうですね……アリバイトリックの使い手である鮎川哲也氏は、「四次元の密室」を現出させたことがあるのですが(『道化師の檻』とか)、本作はそれに近いものがあります……いかんいかん、これは書きすぎかもしれないですね、やめときます。

久方ぶりの西澤さん、大変満足できました。

 

 

「しかし実際に異常な体験を経た後の彼女の耳には、そんな言い分は空疎なお題目にしか聞こえない。人数なんか関係ないのだ、と。三人だろうが五人だろうが。たとえそれまで会ったことのない相手だろうが、必要とあらば殺してしまえる。それが人間というものなのだ。」(p69)

 

 

何気ない言葉に伏線を忍ばせ、あとから世界を崩壊させる、それが名人芸です。