さぁてお立ち会い。
ホック先生の誇る、「価値のないものを盗み出す」怪盗ニック・ヴェルヴェットの再登場です。
ニックものを年代順に収録刊行しようという野心的全集(普通か?)の第二巻。
本作でニックが盗むものといえば、イタリアンマフィアのボスの飼っている虎猫、何もない部屋、くもりの入ってしまった映画フィルム、安物のクリスタルの王冠、古いが値打ちのないサーカスのポスター、ラスベガスのカジノにあるカッコウ時計、怪盗ニック(!)、ゴミ、でかいだけのワシの像、ペニー銅貨、異世界に通じている(とごくごくごくごくごく一部の人間が信じている)鏡、軍人の家の裏山の雪、裁縫に使うかがり玉、ライヘンバッハのシャーロック・ホームズ記念館にあるスリッパ(本物ではない……というか本物は現実には存在しない)、そして「何も盗むな」(!!)。
こうして羅列しただけで、一見価値がありそうなものもあるのですが、ほとんどはそのもの自体の世間一般の価値はありません。
つまり、どこかの誰かにとっては「価値がある」ものでしかないのです。
ニックの「価値」は、世間一般の価値とほぼ等しいので、そこから「価値の有る無し」を判断し、「無い」のであれば盗みを引き受けます。
奇抜な盗み方自体を楽しむ場合もありますが、多くの作品では「誰かがそれを盗ませた理由」が暴かれます(why done it)。
それが納得いく場合と、「おいおいそんな理由で」という場合とがあり、作品によっては出来不出来に差があります。
そこも含めての、短編の名手ホックの手腕を楽しむのが、ホックファンというものでしょう。
どれも宝物のような作品ばかりで、甲乙つけがたいのですが、そうですね、「石のワシ像を盗め」が一番面白いかな。
大きな石でできた鷲の像を盗むのですが、謎の主眼はそこにはない、という視点ずらしの手法が見事だと思います(解決の意外性も)。
「何も盗むな」の結末も好きですね。
これ、日本に翻案して、ドラマでできないですかねぇ……無理か。
まぁ受けないでしょうから、しょうがないですが……『高い城の男」をドラマ化しようってちょっとイカれた人も世の中にはいるんだから、やってみてもいいような気がします。
残念。