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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『金田一耕助VS明智小五郎ふたたび』芦辺拓

 

 前作『金田一耕助VS明智小五郎』は間違いなく読んでいるのですが、ほぼ覚えていない……でも芦辺さんだからいいや、と思って読み始めると、知っているストーリーっぽくて、なんだこのデジャブ……。

 

○こちら===>>>

『金田一耕助VS明智小五郎ふたたび』 - とれたてフジテレビ

 

↑これか!!

 

でも、なんか違う気がする……。

 

小説のほうは、没落華族の柳條家を乗っ取ろうとする悪漢たちを前に、戦地から命からがら舞い戻った金田一耕助がきりきり舞いする……させられる……というような話です。

何か違うな……。

登場人物には、当然ライバルとしての明智小五郎も名を連ねており、こちらはこちらで、戦中はいたしかたなく軍の暗号解析部隊で働かされていたものの、かつてのような栄光を取り戻すべく探偵稼業を開始した、とこんな具合です。

金田一耕助の生みの親である横溝正史氏、明智小五郎の生みの親である江戸川乱歩氏、ともに戦争には行っていなかったはずで(乱歩の方は、膨大なメモが残されており、その中で町内会の防空壕がなんとかかんとか、といった活躍(?)をしていた様子が偲ばれます)、どちらの本も戦中には禁書扱いでした。

芦辺氏は、終戦後の両作家の活動に、二人の探偵を重ね合わせており、作中でちらっと出てくる法水麟太郎小栗虫太郎作品の名探偵)や帆村荘六海野十三作品の名探偵)の様子と比べてみるとまた面白いかもしれません。

謎のカエル男が出てくるところなんかは、乱歩の通俗探偵もの(『人間豹』とか……違うか……)へのオマージュでしょうし、旧家のドロドロは横溝作品ですし、とにかくあの時代のことをよくご存知な芦辺先生なので、安心して読むことができます。

そのほか、アメリカの作家J・P・マーカンドが産み出した日本人(らしき)探偵ミスター・モトと金田一耕助が、アメリカから神戸に帰着する客船の中で邂逅する短編、魔都・上海を舞台に金田一と明智が巡り会う中編(こちらの方が芦辺色が出ていてよかったのではないかと)、横溝の短編にして未解決事件「瞳の中の女」の解決編を森江春策が解き明かす短編などが収録されています。

とにかく、近代の探偵小説あるいは芸能史(映画など)に関する芦辺氏の知識は余人を寄せ付けない(と感じさせる)ものがあり、『少女探偵は帝都を駆ける』なんてなぜかノスタルジィを感じながらわくわくして読ませていただいたものです(昭和世代が追いかけている残光かもしれません)。

キン肉マン』でいうところのテリーマン、『刃牙」シリーズで言えば、なんでも知っている本部以蔵のような博覧強記の芦辺氏ですが、その該博さとともにひねりの加わった多重構造なミステリが私は好きなので、是非ともまた突拍子もない長編を書いていただきたいものです。

本当は『紅楼夢の殺人』を読みたいのですが、原作を読んでからでないとパスティーシュにとりかかれない私は、どうしても『紅楼夢』に手が出せないでいます……いつか読むぞ、と。

 

 

「ということであれば、ただでさえ愚かな小理屈屋たちのせいで、半ば不毛と化してしまった大地をよみがえらせることができるのは、いよいよもって彼女たちのみーーというわけですな」(P263)

 

 

大地の名は物語。