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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『古代ギリシャのリアル』藤村シシン

 

古代ギリシャのリアル

古代ギリシャのリアル

 

 1984年生まれ、ということは私より10歳若い筆者は、『聖闘士星矢』を見て古代ギリシャに興味を持ち、ついに研究家になってしまった、という「非常にめでたく成功した」オタクの鏡のような方です(素晴らしい)。

キャプテン翼』を見てMFに憧れたジダン、みたいなものでしょうか(ちょっと違う)。

 

本書は、「古代ギリシャ」の復元、ギリシャ神話の世界、古代ギリシャ人のメンタリティーと章を分けて、我々のイメージする「古代ギリシャ」なるものが、実像といかに違っているのか、を面白おかしく紹介したものです。

例えば、1939年に大英博物館が、パルテノン神殿レリーフ「金ダワシでごしごし削って白くしちゃった」という事件。

 

「当時の西欧の人々は、ギリシャの神殿は白くなければいけない、と思っていた」(p19)

 

とあるように、近代ヨーロッパ人がいかにして事実(歴史)を破壊してきたか、という表れです(今でも事実……というか文明を破壊している人たちが世界中にいますけれど)。

それは同時に、「決して白い世界ではなかった古代ギリシャ」を示唆しています。

当たり前ですな。

侘び寂びがもてはやされるようになった日本は、もともと四季があって色彩豊かな土地柄ですが、それでもその色彩を建築物などで表現したいという欲求は当然ながらあったのです(「借景」もありますけど)。

神社建築は白木のままがいいのだ、という発想は、古代ギリシャに想いを馳せたヨーロッパ人と同じく、理想化された過去を懐古したい、という妄想にすぎない……というのは言い過ぎですが、近いものがあるでしょう。

色彩感覚は文化に根付いており、虹の色が世界中で「何色あるのか」、太陽が「何色に表現されるのか」違っているように、我々は同じものを見ていながら、同じように表現するわけではないのです。

それを「翻訳」し、その「翻訳」だけが定着してしまうと、当時その場所ではどうだったのか、がだんだんと失われ、現在の人間たちと同じような感覚だったと誤解してしまうことでしょう(その方が、感情移入しやすいので、悪いことばかりではないのですが)。

 

 

世界史でギリシャ文明を習います。

メソポタミア、エジプト、ギリシャ、ローマと進んでいく古代西方(一部東方含む)の歴史は、基本的にはヨーロッパ人がかくあれと望んだ歴史だったりしますので、遠い日本から覗き見ているだけでは、そこに潜んでいるものというのはなかなか見えてきません。

古代ギリシャには古代ギリシャという国はありませんでした(都市国家しかない)。

それなのに、「古代ギリシャ人」はいたんですね(同じ言葉を話し、同じ習慣を共有していれば、所属ポリスは違っても、それは「ギリシャ人」だったのです)。

こういったことを、きちんと歴史の授業で教えてもらえれば、もっと面白いのにな……と思います。

 

 

ま、そうすると、こういった本は売れなくなるわけですが。

 

 

ギリシャ神話の神々についても、もともと「人間臭い」という説明がされることが多いですが、より深層まで踏み込んだ解説がされています。

これを読むと、日本神話の神々との相似と相違が見えて、またなかなか面白いです。

日本神話の特徴に、洪水伝説がないことと、人類誕生神話がないことがあげられます。

ギリシャ神話には、このどちらもあります。

ということは、日本神話というのは、比較的新しい神話だと考えられます(洪水伝説のほうは、伊弉諾伊弉冉両神の国生みになぞらえることができないでもないですが)。

それでも、イメージとして似ているのは、一神教の神様ではなく、アニミズムの世界の神様だからなのでしょう。

デルフォイ神託についても、いろいろ面白いことが書かれています。

イメージ的には……「生協の○○さん」とかいうのがあるじゃないですか、あんな感じですかね。

あんまりネタばらししてもいけませんのでこのあたりに……とにかく、『聖闘士星矢』からギリシャネタが好きになった人が、同じような思いを抱いている我々の年代の先入観を見事に打ち砕いてくれる、痛快な本ですので、是非とも手にとっていただきたいと思います。

あ、だからといって『聖闘士星矢』の価値が下がる、とは全然思っていません。

孔雀王』から仏教に興味を持ったっていいんです。

開かれた知、へ誘うものは、なんだって構わないのです。

 

 

古代ギリシャの一般市民にとって、「生きるために働く」「食べるために働く」「報酬をもらって働く」ことは不名誉なことだったのです。」(p210)

 

 

だから、奴隷がいたのでした。