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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『神社姫の森』春日みかげ Founder:京極夏彦

読書

 

 追悼:水木しげる大先生

あなたがいらっしゃらなければ、日本の妖怪は死んでいたかもしれません(その方がよかった、という意見もありましょうがさておいて)。

井上円了はともかく、鳥山石燕師と柳田国男師の衣鉢を継がれたのは間違いなく水木先生でした。

そして、荒俣宏氏、京極夏彦氏、小松和彦氏、多田克己氏、みなぎ得一氏、と水木先生の衣鉢を継ぐ人々がいらっしゃいます。

『妖怪ウォッチ』もあります。

日本の妖怪は、また100年生き延びたのかもしれません。

水木先生はきっと、ヌリカベになってしまわれたのだと思います。

もう見ることはできませんが、心通ずるひとには、触れることができるでしょう。

 

 

 

御大の訃報を耳にして、そんなことを思ったからではないのですが、たまたま手に取った『神社姫の森』という小説、なんと「百鬼夜行」公式シェアード・ワールド、「薔薇十字叢書」と銘打たれておりました。

ボルヘスの「バベルの図書館」かいな。

シェアード・ワールドは、日本ではなかなか馴染まないのでないかなぁと、25年くらい前から思っていたのですが、まさかここから……かつてはクリスも『FSS』はシェアード・ワールドにしてもいいぜ〜なんて(多分ほろ酔いで適当なことを)言っていたものですが、あれこそ無理ですわ……でも京極堂百鬼夜行」シリーズなら行けなくもないかな。

何しろ、妖怪の数だけ話ができますからな。

というわけで本書には、『姑獲鳥の夏』『魍魎の匣』などシリーズのややネタバレが含まれておりますのでご注意ください(シェアード・ワールドはそういうもの)。

冒頭から『ゴジラ』封切りの話題、そこから(現代に続く)原子力安全神話への京極堂の警鐘(これは、現代から見ているから容易に書けるわけですね)、そして展開される衒学的な情報量は本家に近いですが、そこに巧みにサブカルへの視点を挿入しているところがライトノベル作家の作者の面目躍如かな(まあ、本家も似たようなものか)。

物語としては、『魍魎の匣』に登場した小説家・久保竣公のものしたらしき小説が発表される、それも『魍魎の匣」事件を知っているものでしか書けない形で、そして著者は久保竣”皇”……果たしてこの久保竣皇は、死んだはずの久保竣公なのか……。

これだけ書いただけでもネタが割れそうになるのが恐ろしいですね(何しろ、久保竣皇の正体が序盤でわかっちゃいますから……特に京極ファンなら)。

その一点での勝負ではなかなか分が悪いですが、本家への愛で押し切った、という感じです(褒めてます)。

他の「百鬼夜行シェアード・ワールドは読んでいませんが(というより私は『邪魅の雫』も読んでいません)、本書は結構オススメです。

本家への愛が過ぎる、という点では、面白みに欠けるかもしれません。

ユングやらフロイトやら共時性やら超自我やら、物語の時間軸では比較的新しかったものも古びているのですが、そこにひっそりと発掘されたアドラーなんかを挿入してくるあたりが現代の作家、という感じですね。

物語は常に新しく更新される。

 

そして、この本を読み終えて、水木御大の訃報に接したことこそが、一番の共時性だったように思います。

ありがとう、春日みかげ先生。

 

 

「少年は探求の旅において、少女にかけられた呪いの本質を突き止めたのです。それは『ループ』です。少女が死んだ瞬間に、世界は再び、一週間前の過去へと巻き戻されるんです。そして、一週間が経過すると、また少女は死ぬ。その少女の死に至る一週間が、無限に反復されるのです。ただし、このループ構造には抜け道が一つだけあるんです。少女を殺した者だけは、巻き戻されて消去される一週間の記憶を、保持することができるのです」(p91)

 

私の平凡な脳みそは、タイムリープものをあまり受け付けないのですが、こういったネタの使い方の巧みさも、現代のラノベ作家だから、なのでしょうか。