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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『プロメテウス・トラップ』福田和代

 

プロメテウス・トラップ (ハヤカワ・ミステリワールド)

プロメテウス・トラップ (ハヤカワ・ミステリワールド)

 

 かつて「プロメテ」と呼ばれた天才ハッカー・能條。

MITに留学中、FBIのシステムに侵入して逮捕、釈放されてからは日本でしがない在宅プログラマとして生計を立てていた。

知り合いといえば、チャットで会話するだけのハンドルネーム「パンドラ」、かつての同級生、飛び級で大学に進学した天才少年ポール・ラドクリフくらい。

そんな能條のところに、怪しい依頼がやってくる。

バーで偶然出会った男が、ICチップの中身を取り出して欲しいと頼んできた。

うさんくさい、と思いながらも、日常に倦んでいた能條は依頼を引き受ける。

チップの中身は、電子パスポートだった。

おそらく男は、パスポートを偽造して出国したいと考えている。

ここから先は断るべきだ、と能條は考えるが、いつの間にか自分のPCを奪い取られていた。

さらに男は、自分の過去を流布させると、暗に脅迫してきた。

依頼を受けるしかない……その判断が、能條を国際的な謀略へと引きずり込むこととなった。

 

 

今でもそうですが、「プロメテウス」という名前が冠されていると、反射的に手に取ってしまうことがあります。

この小説は購入して5年寝かせてありました(忘れていた、というわけではないと思います)。

短編が6本入った連作サイバーミステリとでも言うのでしょうか、どちらかというとコン・ゲーム的ですが、なかなか面白かったです。

結末も、予想の範囲内ではありましたが(登場人物がどうしてもね……)、状況をひっくり返し、さらにいろいろなものを反転させて終わる、というプロットはよく練られていて美しいと思いました。

ネタバレせずに書けることが少ないのが残念です。

文章も平易で、ちょっとサスペンスを演出するには弱い筆致のようにも思えますが、気持ちよく読んでいけます。

ITの知識がなくても面白く読めますし、現在のネット社会に対する一つのアンチテーゼとして読んでみると面白いかと思います。

ただ、現実には「アノニマス」がいますからねぇ……。

 

 

「能條がトイレから出てくると、キャビン・アテンダントがなにかを探し回っていた。小学生くらいの男の子が、携帯ゲーム機器で遊んでいるのを見つけると、かがみこんでその隣に座っている親に声をかけた。

「申し訳ありませんが、航空機の電子機器に悪影響を与えておりますので、ゲーム機の電源をお切り願えますか」

子どもの親が、能條が気の毒になるほど慌てて、ゲーム機を取り上げるのが見えた。」(p32)