べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『古代史の謎は「鉄」で解ける』長野正孝

 

古代史の謎は「鉄」で解ける (PHP新書)

古代史の謎は「鉄」で解ける (PHP新書)

 

 古代史好きなので、右から左まで、堅実なものからトンデモ本まで、何でもかんでも読んでいます。

そのため、ときどき飛鳥昭雄氏の本も読んだりします(ナ、ナンダッテー!!)。

私は「邪馬台国論争」にさして興味はありません。

いえ、論争自体には興味があるのですが、所在地云々についてはまぁどっちでもという感じです。

というわけで本書では、主に「古代列島では、鉄をいかにして運んだのか」ということが語られています。

古代史を考えるにあたり、「金属精錬の技を持つ集団」がよく登場しますが、人の移動はわりと容易でも「物の移動」、それも大量にとなると、結構大変なのは想像がつきます。

「鉄の移動経路」を考察することで、古代列島のダイナミズムを再現してみよう、というのが本書の狙いかと思います(違ったらごめんなさい)。

筆者は工学博士で海洋史、港湾技術などの専門家です。

だからなのか、急にハンザ同盟とか出てくるから面白いです。

縄文時代には、列島の海岸線がかなり違っていたことは有名ですが、現代の交通網の発達(江戸時代の街道整備の遺産ですが)でそれらがあまりイメージできません。

ただ、昔から不思議だったのが、「東海道」という名前です(『日本書紀』にも出てきます)。

今は東名高速道路東海道新幹線が通っていて、さっぱり「海」のイメージがないのに、昔から「東海道」だったということは、陸路だけで行くよりも、海路を使う方が便利だった時代があったからなのでしょう。

三重県から愛知県にいたる部分は、江戸時代でも「宮の渡し」といって、内海を船で移動していました(江戸の東海道でも、この部分は船です)。

ふとそんなことを思いながら読んでいました。

いろいろと示唆に富んでおり、かなり面白いのですが、前方後円墳の謎に一歩踏み込んでいるところが「ちょっとトンデモ説」と思われる原因なのかもしれません。

帯には前方後円墳は実利を得る『公設市場』」と書かれています。

んー、なるほど。

そういった発想も面白いのではないか、と。

確かに、記紀には陵の場所やら築かれた年月が書かれていたりしますが、その様式にはほとんど触れられていません。

というのはおそらく、記紀がまとめられた時代(その前から続いていた記録も含めて)には、その様式の意味がすでに忘れられていたからではないかと思います。

大山古墳なんて400メートル超え、当時でいったら超巨大築造物なわけで、誰だって不思議に思うはずです。

そのくらい書き残してくれればいいのに……。

いえ、「何でこんな風に作ったのだろう」的な疑問だけでも書き残してくれれば、どの時代でその様式の意味が忘れられたのかが推測できるので。

もちろん、だんだんとそんなことも書かれていくのだと思いますが、まぁ江戸時代までほったらかしの野山になってたりしますからね天皇陵も。

 

これでまた、古代史妄想を膨らませる材料が得られた、ということで満足です。

 

 

「しかし、野島永氏によれば、弥生後半から弥生末期、紀元二〇〇年から四〇〇年までの墳墓出土刀剣を比較したとき、筑前、豊後、豊前より丹後、播磨、越前、但馬、上野の方が同等か多い状態にある(『初期国家形成過程の鉄器文化』雄山閣出版、二〇〇九年)。」(p21)

 

「一世紀頃、正確には世紀末前の日本の墳墓には、縄文時代からそのまま土に埋める土壙墓、中国、朝鮮半島の影響を受けた甕棺、周溝墓、朝鮮半島の影響を受けた支石墓などがあった。ところが突然、全国的に見たこともない四角い積石塚が増え、のちに円墳が増えるなど、多様な墳墓が至るところでできる。二世紀から七世紀、古墳時代晩期まで続く。」(p83)

 

平安時代源通親の『高倉院厳島御幸記』には、御津に船が立ち寄ったときに化け物のように化粧をした湯女が出てきたという。すでに平安時代には港、港に女あり、江戸時代の瀬戸内海航路の港には「はしりがね」という女性がいたという。」(p134)

 

日本書紀』には潤色がある、というより虚構がある。多くの識者は『日本書紀』と『三国史記』にあるので、事実としているが、上田正昭氏は『渡来の古代史』(角川選書、二〇一三年)で、『日本書紀』における百済新羅との関係は、百済の遺民が執筆したもの、虚構が多いという。

大和から朝鮮半島まで七〇〇キロ、大軍を送れる兵站輸送能力が当時の大和にはない。もし、参戦していれば、群馬、埼玉、熊本の遺跡のように高句麗のものすごい武具が出るはずであるが、まったくない。そろそろ、歴史家は『日本書紀」から卒業する必要がある。」(p144)