べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『中途の家』エラリー・クイーン

 

中途の家 (角川文庫)

中途の家 (角川文庫)

 

 

クイーンは結構読んでいるはずなのですが、たまに思い出したように読み忘れを見つけます。

『中途の家』(ハヤカワだと『途中の家』)は、角川から新訳が出ていたのでひょいと購入して、しばらくほったらかしにしてあったものを掘り出して読みました。

 

旧友で弁護士のウィリアム・エンジェルと再会したエラリーは、彼の妹の夫ジョーゼフの奇妙な行動について聞かされます。結婚して十年近くになるというのに、週に「四、五日は留守にする」というのです。ウィリアムは、トレントン(ニューヨークとフィラデルフィアの間にある街)のある家で、義理の弟ジョーゼフと待ち合わせをしていました。行商のような仕事とはいえ稼ぎはあり、週に何日も姿を消すとはいえ妹には優しい義弟。何の話があるのか、エラリーと別れたウィリアムは川沿いのその家に向かいます。と、女の悲鳴が聞こえたかと思うと、家から飛び出してきた女はキャデラックに乗り込んで走り出しました(顔は見えません)。ウィリアムのポンティアックにぶつかる寸前で女の車は避けていき、怪しんだウィリアムは家に向かいました。そこにはジョーゼフが倒れていました。「女、ヴェール、厚いヴェール……刺されたんだ……ルーシーを愛している……」と言い残して、すぐに息絶えてしまいます。

エラリーはウィリアムから連絡を受けて、すぐに彼のもとへ向かいました。現場を見聞していると、警察そして<トレントン・タイムス>の女記者も駆けつけています。いくつもの不可解な点(例えば、その家には寝る場所がなかった)が発覚し、妻であるルーシーが到着します。そんな中エラリーはあることに気づきますが、それを隠しておくわけにはいきませんでした。結局ある秘密はその人物ーギンボール夫人の登場で公然のものとなります。

 

「この人は、ニューヨークのパーク街に住むジョーゼフ・ケント・ギンボール。わたくしの夫です。わたくしの夫ですわ」(p97)

 

というわけで、殺されていた男は、二人の女と結婚していたことが明らかになったのでした。

そしてタイトルにある『中途の家(原題『HALFWAY HOUSE』)』とは、どうやらニューヨークとフィラデルフィアの間を行ったり来たりしながら二重生活を続けていたジョーゼフが、ミスター・ギンボールからミスター・ウィルスンへと入れ替わるための場所だったことを表していたようです。

探偵小説世界の論理追求にかけては右に出るもののいないクイーン、今回の論理は「二重生活をしていた男は、果たしてどちらの人格として殺されたのか?」です。

こんなことを思いついて、それをミステリにするという時点で変態です(褒めてます)。

だいたい10年近くも二重生活をしていて気づかないものなのか……クイーンはよほど女性をアホに書きたいのか、と思わせますが、そういうわけでもないのですよねこれが。

めくるめく論理の渦に巻き込まれるので、クイーンの小説の筋をほとんど覚えていない私ですが、これもまさにそうです(『シャム双子』はインパクトのせいか、結構覚えているんですよね……全然思い出せないのが『ローマ帽子』、『十日間の不思議』、『靴に棲む老婆』……ライツヴィルシリーズは、本当に覚えていませんねぇ……ちゃんと読み直さないと……)。

これであとクイーンで読んでないのはどれだろう……探してみないと。

クリスティを全部読むのはあきらめましたが、クイーンは読めるんじゃないかと思っていますもので。

クイーン初心者は、『オランダ靴』とか『スペイン岬』『エジプト十字』あたりから読むのがいいですよ〜(それか『Yの悲劇』)。

間違っても最初に『九尾の猫」とか読まないように〜。

 

 

「なぜもっと簡単な道具を使わなかったのだと思いますか」

「何もなかったからです」(p267)