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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『古代史の謎は「海路」で解ける』長野正孝

読書

 

古代史の謎は「海路」で解ける (PHP新書)

古代史の謎は「海路」で解ける (PHP新書)

 

 

古代史づいてます。

本書の著者は……以前には紹介していないかな……名古屋大学卒業の工学博士で、元国土交通相港湾技術研究所所長も勤められた、船と海路に関する専門家です。

別領域の研究者が歴史に手を出すと眉唾で見てしまいがちですが、こと専門領域の歴史に関しては、歴史学者では手に負えない場合があります。

一方で、専門家としての見識が何かを邪魔して見えなくしてしまうこともありえるかもしれません。

 

本書では、古代史を「海洋史」で切り取って検討してみることで、高台にほんの姿を映し出してみよう、という試みがなされています。

 

第1章では、邪馬台国の位置に関して、いわゆる『魏志倭人伝』の記述(「倭水人好沈没捕魚蛤、文身亦以厭大魚水禽」)から、そんな海が九州や近畿大和地方にあったのか、というところから話が展開していきます。

縄文海進、という今よりも海面が数メートルは高かった時代には、九州・宗像の地にはおそらく潟があったのではないか、と考えられます。

また奈良にもかつては海があった(もっと昔の話ですが)というくらいで、2000年ほど前には大阪湾はもっと内側まで押し寄せていて、纒向付近には湖があったのではないかと考えられてます。

大和川は、古代大阪湾としっかりつながっており、往復ができたのではないか、と。

 

第2章は、山陰の海岸線を渡っていった、古代の船乗りたちの足跡をたどっています。

半島などから仕入れた文物は、山陰から播磨へと運ばれたとの推論です(あるところでは、船を曳き山越えした、ということです……そんな人がヨーロッパにもいた気がします……思い出せませんが)。

面白いのは第6章で、章題が「卑弥呼の時代、瀬戸内を航海できる船乗りはいなかった」。

 

「だが、瀬戸内海は、古代の船にとって航路をつくることが難しかった。干満差は三メートル以上、時速二十キロメートルという激しい流れ、数多くの岩礁。さらに一日二回ずつ東西に強い流れがあり、全体としては東に流れている。具体的には、最強時には関門海峡で九・四ノット(時速十七・四キロメートル)、大畠瀬戸六・七ノット(時速十二・八キロ)、来島海峡十・三ノット(時速十九キロ)、備讃瀬戸三・四ノット(時速六・三キロ)、明石六・七ノット(時速十二・四キロ)、鳴門十・五ノット(時速十九・四キロ)で、時速四〜五キロでしか進めない漕走船でいきなり高校をはじめるには無理がある(潮流の数値は海上保安庁水路部資料に拠った)。「待てば海路の日和あり」という諺があるが、待っても通れない。干満差があり、水面下に岩礁があるような海では、船がぶつかると破損、転覆してしまう。それを避けるためには水路を開く「啓開」、すなわち水中の障害物を取り除き、航路を開く作業を行って、航路を確保する必要がある。瀬戸内海は、まさにそうした作業が必要な海である。」(p99)

 

これが、

 

 

島田荘司御大の映画化・コミック化作品『星籠の海』でも語られる、「時計仕掛けの海」なのです。

古代三世紀頃の船では、百隻規模の船団を組んだとしても、瀬戸内海の難所は通り抜けられない、そのためにはしっかりと「航路」を作らなければならないというのです。

 

「それでは、いつ頃から普通に瀬戸内海が通れるようになったのか。中学の参考書にも書いてあるが、六世紀、大和朝廷が瀬戸内海の船乗りに食料供給基地の屯倉を開いてからである。」(p101)

 

つまり、神武天皇」が九州から大軍団を率いて瀬戸内海を通ることも、神功皇后三韓征伐のために大船団を率いて瀬戸内海を通ることもできなかった、ということになってしまうのでした(三韓征伐に関しては、時代的に半島へ倭人が攻撃を仕掛けている様子が見られるので、九州あたりで船を作れば可能だったのかもしれません)。

科学的にはかなり説得力を持つ仮説だと思いますが、学会ではあんまり受けないでしょうね……。

私が古代史で妄想するときも、時代はともかく九州からなんらかの勢力が大和にやってきたり、逆に大和の勢力が九州の熊襲討伐に出かけたり、ということを割と普通に受け入れてしまっています。

妄想を打ち砕くのは、いつでも科学なのかもしれません。

この説に面白い反撃が加えられている本があると、また面白いのですが(瀬戸内海なんてばんばん通れたんだぜ、的な)。

神社伝承や文献を基にした妄想と、科学に依拠した論は相性が悪いのです……それでもめげずに妄想しますけれど。

ざっと読んだだけで、なかなか頭に入っていないので、もう一度読み直してみようと思います。

『星籠の海』とともに、オススメです。