べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『脳科学は人格を変えられるか?』エレーヌ・フォックス

 

脳科学は人格を変えられるか?

脳科学は人格を変えられるか?

 

 

結構分厚い本だった(といっても『ファスト&スロー』よりは薄いかな)。

著者は、オックスフォード大学感情神経科学センター教授で、昨年にはNHKの『白熱教室』で講義も行っているようです。

原題は『Rainy Brain, Sunny Brain』で、「悲観脳」と「楽観脳」と訳されています。

これは、前向きな思考と後ろ向きな思考が何故存在するのか、という疑問から、それらが何に由来するのか(遺伝子なのか、環境により形成されるものなのか)を検証し、ひょっとしてそれをコントロールすることも可能なのではないか、というところまで迫ります。

心理学というものが、脳機能の分析により検証可能になってきている(らしい)ことは、『ファスト&スロー』でも語られていましたが、内容的には本書も似ているといえます。

これらに関して、我々がよくよく注意しなければならないのは、「悲観脳」と「楽観脳」という仮想システムが存在するとして、それらが実は生存のために必要だからこそ今まで備わってきた、ということです。

どちらがいい、ということではなく、そのバランスの中で、どういった選択をするのか、が重要です。

精神(あるいは脳内物質)のバランスが崩れ、「よりよく選択できない」、抑うつ状態や強すぎる不安、恐怖症などは、修正し「よりよく選択できる」ようになったほうがいいだろう、という程度のことです(うつなどで苦しんでいらっしゃる方に、こういった言い方は適していないとは思いますが、本質を外すと別の偏見を生むことになりかねません)。

 

「楽観的な人の心は、ポジティブなものに強く引かれると同時に、ネガティブなものを巧みに遠ざけている。悲観や不安を抱きがちな人と楽観的な人とでは、認識のスタイルが根本的に異なっているのだ。それはなぜだろう?」(p11)

 

「だがいちばん重大な発見は、楽観がプラスに作用するのは、適度なリアリズムと結びついたときだけだという事実だ。やみくもな楽観や「悪いことはぜったい起こらない」という思い込みからは、プラスの結果はおそらく生まれてこない。」(p23)

 

「緊急度の高いものに注意を集中させ、残りは認識から遮断する脳の習性は、きわめて重要だ。それがなかったら、人はあふれる情報に押しつぶされ、身動きがとれなくなってしまう。だがこの選択的注意はいっぽうで、脳が重要でないと判断したものをすべて認識からふるい落とす作用ももつ。」(p35)

 

「人間にもともと組み込まれた楽観は、日常生活にも利益をもたらす。たとえば、ものごとは将来きっとうまくいくと信じることで、人は現在の生活をより幸福な気持ちで、より満ち足りて過ごすことができる。さまざまな調査結果からも、人がおおかたの場合「自分の人生に満足し、幸福を感じる」と回答することが示されている。」(p89)

 

 

「快楽と同じく、恐怖をつかさどる回路全体にもアクセルとブレーキの両方の機能がある。扁桃体からくる警報のスイッチを完全に切ることは大脳皮質にもできない。そこには解剖学的な事情がある。扁桃体から大脳皮質に向かう経路の数は逆方向の経路よりずっと多く、そのせいで、扁桃体という原始的な組織がもっと高次な大脳皮質に対して、過剰なほど大きな力をふるえるのだ。」(p126)

 

「だが実験が進むうち、原始的な脅威と現代的な脅威とのあいだで、ちがいがあらわれてきた。恐怖の消去までにかかる時間に注目すると、銃と比べてヘビに対する恐怖のスイッチを切るのはずっと困難なことがわかったのだ。」(p223)

 

前頭前野扁桃体との相互作用のシステムは、現在の経験を意識的に評価することによって、感情をコントロールしたり方向づけたりするのを助けている。うなり声をあげている犬など何かの危険に直面したとき人は、脳内のパニックボタンである扁桃体の指令だけに従うのではなく、前頭前野の助けを借りて、たとえば「その場から逃げられるかどうか」を考え、脅威の度合いを推し量っているものだ。そうすることで、脳内の<石器時代>の領域にある扁桃体の活動を制御できる。恐怖に対する感情の反応を制御するうえで、この、前頭前野扁桃体の回路は非常に重要な役目を果たす。不安症やパニック障害、恐怖症、PTSD抑うつ症などさまざまな心の失調が起きるのは、レイニーブレインの根底にあるこの回路が機能不全になるせいなのだ。」(p261)

 

 

近年、マインドフルネスや瞑想に関する興味関心が増大しているようです。

いわゆるネガティブな情報というのは、古い脳に定着することが多いようです。

ネガティブな情報は、生存に重要な意味を持ち、それを覚えておかなければ、次の機会に生かすことができないかもしれない(つまり生き残れない)ので、生命活動の根源的な部分をつかさどる、「オフにできない」回路(たとえば心臓の鼓動を司っている部分)の中に紛れ込ませて、忘れずに、再現できるようにしている、といった感じのようです(イメージです)。

瞑想やマインドフルネスは、この部分に何とかして働きかけよう、というものだと思います(私の感想です)。

ネガティブな情報を完全に忘れてしまうと、非常にまずい事態に陥りますが、無用の情報はできるだけ不活性化させたほうがいいに決まっています。

古い脳はなかなか眠りませんから(寝たら死にますから)、ネガティブな情報も定着し、容易に想起され、想起されることで強化され……という具合にループしていきます。

これを断ち切る、ネガティブな情報を必要以上に強化しないために、瞑想やマインドフルネスを活用するといい、らしいです。

私が以前聞いた話では、「呼吸法」がいいのではないか、と。

その先生がおっしゃるには、古い脳から出る信号は決まった秒数で、それより長い行為、しかもより重要度の高い行為を行えば、脳はその信号を送ることができなくなる、では重要度の高い行為といったらなにかといえば、人間にとっては「呼吸」なわけです(その先生の解釈を、さらに私なりに書いていますので、正確ではありません)。

長く息を吐き続けることで(その命令を出すことで)、古い脳がネガティブな記憶を再生させることが難しくなる、らしいです。

実際にやってみてもわかるのですが、息を吐くことに集中すると、なかなか他のことはできません(ほぼ自動的にできるようなことは可能ですが、危ないので、呼吸法は安静な状態で行いましょう……運転中とかぜったいだめですから)。

信じるか信じないかはあなた次第ですが。