べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『レックス・ムンディ』荒俣宏

 

レックス・ムンディ (集英社文庫)

レックス・ムンディ (集英社文庫)

 

 

思い立ったので……数年前に購入してほったらかしだった本を読んでみました。

本格ではなく、歴史・伝奇ものを読みたかっただけなんですけれどね。

あ、SFかな。

何しろロリンズ・ロス中なもので(<シグマフォース>の新作がなかなか出ないのです)、日本でそれに匹敵するといったらもう荒俣先生しかおらんのちゃうか、と(なぜ関西弁?)。

 

 

考古学者でレイハンター(レイラインを追いかける人間)の青山譲の元に、ある宗教団体から依頼が舞い込む。

それは、南仏・レンヌ・ル・シャトーに眠る石棺を見つけ出して欲しい、というものだった。

青山は、実際過去にその遺跡を発見し、発掘しきらなかった、という過去を持っていた。

だからこそ、彼が選ばれたのだろう。

 

 

……ええと、なんといいますか、ざっと書くですね、青山がその宗教団体の資金援助の元に、なんとかレンヌ・ル・シャトーに潜り込み、かつて自分で発掘しなかったものを発掘しようとする、という話なのですが……レンヌ・ル・シャトーでお分かりの通り、

 

 

レンヌ=ル=シャトーの謎―イエスの血脈と聖杯伝説 (叢書ラウルス)

レンヌ=ル=シャトーの謎―イエスの血脈と聖杯伝説 (叢書ラウルス)

 

 

 

↑これですね。

これも簡単に書きますと、南仏ラングドック地方のレンヌ・ル・シャトーという村で、19世紀末に司祭職にあったソーニエールという人物が、聖マグダラのマリア教会の柱の中から謎の羊皮紙を発見、その後になぜかソーニエールは金持ちになり、なんらかの財宝を発見したのではないか、という話です。

ということは、『レンヌ=ル=シャトーの謎』という本は、

 

 

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

 

 

 

↑こいつの種本みたいなものなのですね。

ダ・ヴィンチ・コード』はご存知の方も多いと思いますが(読んでなくても映画は見たぞという人も……私もです)……ネタバレしてもいいのかな……まとにかく、レンヌ・ル・シャトー、ソニエール、ノートルダム・ド・シオン・プリウレ、マグダラのマリア、といったワードから、とあるキリスト教の秘密に迫るという歴史ミステリ小説です。

これはこれでもちろん面白かったのですが(何しろ私、高田崇史好きなもので)、『レックス・ムンディ』の方はSF、ホラーです。

そして書いているのは博覧強記の荒俣宏ですから、歴史、地理、オカルトの知識がこれでもかと投入され、ある意味では『ダ・ヴィンチ・コード』を超えています。

ロリンズが書いたら(彼が、『ダ・ヴィンチ・コード』で手垢のついたネタに手を伸ばすとは思えませんが)、<シグマ・フォース>シリーズでもおかしくないような、歴史あり、暗号あり、アクションあり、の一大エンターテインメントになっていたことでしょう。

あいえ、もちろん『レックス・ムンディ』のままでも、十分そうなっているのですが、この方向性だとシリーズ化が難しいな、と(荒俣先生はそんなことお考えではないでしょうが)。

うーん、こんなこと書いていたら、『ダ・ヴィンチ・コード』を読んでみたくなりましたな。

そして、『帝都物語』も……一巻は読んだ気がするんだけどなぁ……あれなんか、もうちょっといじれば立派に、海外の連ドラに負けないようなネタだと思うんだけどなぁ……早すぎましたか荒俣先生(ま、あれのせいで、伝奇ものっていうのが未だにはびこっている、という批判はあり得ますが……あ、私好きですから伝奇もの)。

文庫としては2000年ですが、初出は1997年(もちろん、『ダ・ヴィンチ・コード』より古いです)。

20年前かぁ……あれ、結構最近だな(30年前だと『帝都物語』か)。

ダ・ヴィンチ・コード』がお好きな方は、読み比べていただけると面白いのではないか、と思います。

エンディングも、SFらしくて好きです。

 

「ほら、靖国神社の方位がそれだ。大鳥居は北東を向いていて、夏至の太陽がのぼる方向に合っている」(p52)

 

 

「われわれの教団は、創設されて約七年になります。新参ですが、入信者の数が大いに伸びておりましてね。絶対の真理、絶対の救済を、地上の人びとに約束する神聖な任務を帯びておりますーー」

で、いつから……疑問が生じたんです? どうも地球を救済できそうになくなった、と」(p64)

 

 

「……天が落ちてきて、地球を損うのです」

少年が語ったことばは突飛にすぎた。考古学者のくちびるが、すこし歪んだ。

「ばかをいうな! 天が落ちるだと! それこそ杞憂ってもんじゃないか!」(p121)

 

1997年……ということは、荒俣先生の脳裏にもほぼ間違いなく某宗教団体の事件のことがあったものと思います。

同時に、当時の知見に基づいていれば当然の話なのかもしれないのですが、

 

「一般に報道されることはないのだが、これまで未開のジャングル地帯や、大陸の辺境部のみで発生していた伝染病の病原体が、日本の都会地でも発見されだしたこと、ここに<運命>の真相は存在した。」(p37)

 

デング熱、ジカ熱、MERS……やがてマラリアということになれば……。