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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『破壊する創造者』フランク・ライアン

 

破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 

 

ここのところ、理系分野の読み物はウィルス、DNAに偏っているのですが、そもそもウィルスのことをよく知らなかったのでいくつか新書を読み、備えておいて本書を読んでみることにしました。

高校時代、化学も生物もとっていなかったので、ついていくのは結構しんどかったです。

目次を見てもそれがわかるのですが、

 

はじめにーー変化の風

第一章 ウイルスは敵か味方か

第二章 ダーウィンと進化の総合説

第三章 遺伝子のクモの巣

第四章 AIDSは敵か味方か

第五章 ヒトゲノムのパラドックス

第六章 ウイルスが私たちを人間にした

第七章 医学への応用

第八章 自己免疫疾患

第九章 癌

第十章 新しい進化論

第十一章 セックスと進化の木

第十二章 人間は多倍体か

第十三章 遺伝子を操る魔人

第十四章 新しい手がかり

第十五章 旅の終わりに

 

そもそも私はダーウィンの進化論すらよく知らないのです(それに続く論争も、実際にはよくわかりません)。

活字が読みづらいせいもあったかもしれませんが、なかなか進みません。

ただ、内容自体は、専門用語や基礎的な素養を要求しながら、幾多の科学者へのインタビューを通じて新たな知見を獲得したり、自らの知見を強化したりする展開が多いので、推理小説のような味わいがありました(その意味では非常に面白かったです)。

要するに「ウイルス」とは何か、おそらく生物(「ウイルス」は通常の生物とは定義されていないわけですが、それでも生物とするなら)としてはかなり古い起源を持つ「ウイルス」と地球上の他の生物たちはどのように共存し、また時には敵対してきたか、それが生物の進化になんらかの影響を及ぼしたのか、ということです。

難しい……まとめきれていないけれど、難しい。

基礎的な勉強が必要だな……と思って、私は今の高校生の参考書を買ってみたのですが、まぁ読み進まない……教科書や参考書というのは、昔からおもしろくないんですなぁ……。

 

 

「いわゆる「インテリジェントデザイン論」を唱える人たちも含め、天地創造説を支持する人たちが進化論を批判する時の論法についてだ。彼らの攻撃の矛先となるのは、進化論の基礎をなすダーウィンの「自然選択説」だ。自然選択説が正しいことはまた証明されていない、と言うのである。自然選択説は、ただ論理の積み重ねだけで作り上げられており、事実によって裏づけられたわけではない、という。この論法を使う人は実に多い。しかし、実のところ、これは正しくない。科学者たちはすでに一五〇年にもわたって、自然選択説が果たして本当に正しいのか、事実に基づいて厳しい検証を続けているからだ。そして、これまでのところ、あらゆる検証に耐え続けてきている。」(p15)

 

 

「ウィルスは、進化、変異という面では突出している。ともかく驚くべき速さで変異をするのだ。その速さは細菌の一〇〇〇倍ほどにはなる。そして、その細菌自体、人間の約一〇〇〇倍の速さで変異するのである。」(p35)

 

 

「ここで一つ重要な事実を明らかにしておく必要があるだろう。ダーウィンは「適者生存」などという言い方はしていない。「適者生存」は元々、社会哲学者ハーバード・スペンサーが考えた概念で、一八六四年に出版された『生物学原理』という本の中に初めて出てくる。」(p48)

 

 

「植物と菌類の関係もその例だが、深海の熱水噴出孔周辺にいる「チューブワーム」という生物にも同様の現象が見られる。チューブワームが生息するのは、構造プレートが形成される海底火山の頂上付近である。この生物には口がなく、自分たちの生きた組織の中に住む共生細菌に依存して栄養を得ている。そして、細菌は、「ブラックスモーカー」と呼ばれる熱水噴出孔から吹き出す硫化水素からエネルギーを得ている。」(p93)

 

 

「「たとえば、あるウイルスが、ある動物に感染してから長い時間が経過し、ついには動物に重大な病気を引き起こすことなく共存できる状態に達した、とします。その後、よく似た別の動物が、その動物と接触したとします。そういう場合に非常に近い異種間でウイルス感染が起こると。ウイルスはとても凶暴なふるまいをするようですね。たいていは死を招くような病気を引き起こす。これも進化によって生じたメカニズムの一つだということは考えられませんか。私も、このことについては考えてみたんです。これは、ウイルスと宿主との間の共生関係によって進化したメカニズムなのではないかと。元々の宿主だった動物にとって利益になることは明らかですよね。よく似た種の動物は、食べ物などをめぐってライバルとなることが多いので、そういう動物が生態系に入ってきた時に、ウイルスが種を越えて感染し、侵入者を排除してくれれば利益になるはず、と考えられます」」(p121)

 

 

統合失調症はいわゆる「複合疾患」である。家計調査や双生児を対象にした調査の結果から、環境的な要因と遺伝的な要因が組み合わさって起きると考えられている。統合失調症にもいくつか種類があり、その原因も多数に及ぶ。しかし、いずれにしろ何らかの病原体、特にウイルスが引き金となっているのでは、という考え方はずっと以前からあった。細菌では、統合失調症と診断されて間もない三五人の患者について、三つの研究グループが調査したところ、脳や脊髄の周辺の液体である脳脊髄液(CSF)中から、HERV-Wのpol遺伝子によく見られる遺伝子配列が見つかっている。さらに、慢性統合失調症の患者について同様の調査を行なったところ、二〇人に一人くらいの割合でレトロウイルスの配列が見つかった。」(p237)

 

 

「そして短期間のうちに、イエローストーン国立公園の過酷な環境の中で植物と共生しているウイルスを発見したのだった。そのウイルスは、ある菌類に感染しており、また、その菌類自体、地熱で高温になった土壌に育つキビ類の植物に寄生している。寄生されている側の植物は、菌類のおかげで熱に耐えることができる。一見、よくあるパターンの共生である。ところが、菌類に感染しているウイルスを取り除いてしまうと、植物は熱に耐えることができなくなり、枯れ始めたのだ。これは菌類が存在しない場合と同様だった。」(p310)

 

 

このほか、「エピジェネティクス」に関する話も面白いのですが、引用してもよくわからないと思うので、興味のある方は各々確認してください。

私が面白いな、と思ったのは、「ウイルスが近縁種間で感染した場合、宿主の生存範囲を守るために、感染した側で何らかの病気を発症させる」(ちょっと違うな……)ことがあるかもしれない、という解釈です。

宿主を守ることは共生関係にあっては当然です(というより、相互補完的になっているというべきでしょうか)。

ウイルスの生存戦略として、「宿主を守る」ために「感染した相手を害する」、というこのシンプルで利己的かつ利他的なシステム。

長く共存して、ほぼ同一化した場合には、社会でも起こりうる現象ですね(移民とか)。

一方、ウイルスとの共存が短い場合には、それは宿主に牙をむくのでしょう。

生物学と社会学の共通点がこんなところに現れるとは……。

そんな大した話でもないですけれどもね。