べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『災厄の町』エラリイ・クイーン

 

災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

今更?

いえ、新訳になっていたのと、どういう話だったのか思い出せなかったのと、せめてクイーンくらいは制覇してもいいんじゃないだろうかと思い始めていたので、復習復習。

 

田舎の町ライツヴィル。

クイーン氏は、都会の喧騒に疲れ果て(たんだと思う)、静かな環境を求めてやってきた。

ちなみに、偽名を名乗る(エラリイ・スミス……そりゃ突っ込まれるよあんた……)。

長期滞在のために部屋を借りようと考えたクイーン氏が不動産屋を尋ねると、紹介されたのは旧家であるライト家の隣の家だった。

ライト家の次女ノーラと、婚約していたジム・ヘイトのために建てられたその家は、三年前にジムが出ていったために使われることもなかった。

そのあと売りに出された家を内覧に来た客が、偶然心臓麻痺を起こして死亡してしまった。

新聞は”災厄の家”などと書きたてた。

そんな不吉な家に、クイーン氏は腰を落ち着けることになったのである。

これから不吉な家で何か起こるのか。

それとも、すでに何か起こっているのか。

ライト家の人々との交流が始まり、町の人たちとも打ち解けていったクイーン氏。

そして、事件は起こる……幸せなほうの事件。

失踪したジム・ヘイトが、3年ぶりに帰還したのだった。

ということで、元”災厄の家”から追い出されることになったクイーン氏だったが(もちろん、若い夫婦のためであれば、紳士たるもの当然なのだが)、ライト家との交流は続いていく。

運び込まれる若夫婦の荷物。

その中から、ノーラが3通の封筒を発見する。

手紙を読んで、ノーラは卒倒してしまう。

クイーン氏は、ノーラの妹パットとともに、ノーラが隠した手紙を見つけ出した。

そこには、ジム・ヘイトの筆跡とおぼしき文章が並んでいた。

それも、まだ11月にならんとするころだというのに、11月末、12月、そして1月のことが書かれている。

宛先はどうやら姉のようで、内容は、自身の妻が病気になり(11月)、重篤になり(12月)、そして息を引き取った(1月)こと。

その手紙がはさまっていた本は、『毒物学』、亜砒酸の項目にはアンダーラインが引かれていた。

パットは、「ジムがノーラを殺そうとしているのだ」と言った。

 

といったところまでが第一部。

まだ事件らしい事件は起きていませんが、とりあえずはライツヴィルの風情と、そこで暮らす人々の様子を楽しむ場面でしょう。

それ以降は、読んでいただいてのお楽しみです……が、それだけではなんなので。

ある人物が、毒物によって死亡し、ある人物が逮捕されます。

その人物を救わんとするために、クイーン氏やパットが奮闘する、という感じです。

 

ハヤカワの旧訳を読んだのがもう何年前なのか、ともかく少し進むたびに「ああ、そういえば」と思い出し、にも関わらず「あれ、これからどうなるんだっけ」と首をひねり、とある部分までさしかかって、「そうだ、こういう話だったんだ……クイーンすげぇな」と思った次第。

うん……なんといいますか、日本で言えば因習の支配する村で起こった事件、みたいなものなんですが、登場人物がなんだかみんなセンシティブでナイーブだな、と。

当時の空気感なのでしょうか……「そうなる前に、どうにでもできたんじゃないのか」とか、「そもそもどうにかしてから、そうしろよ」とか……ミステリの世界で突っ込んではいけないところに突っ込みたくなります。

で、読み返して思ったのが、これって『○○○○』の構造を、別の角度から見ている感じですよね(……って書いてもネタバレしないかな……)。

ああ、ミステリ部分でもいろいろ書いてみたいのですが、ネタバレせずに、この精緻で重層的なパズルを表現できるだけの文章力は私にはないので諦めます。

途中で法廷闘争が入ったりして、多くの要素が入り乱れる、ボリューミーな一作です(が、事件自体は超シンプル、というところにクイーンの筆力の凄まじさがあります)。

新訳版では、誤解を招きかねない旧訳が改善されているそうなので、この機会にいかがでしょう?

ただ、これが読めても『ローマ帽子の謎』が読めるわけではないんだよなぁ……<国名シリーズ>はハードルが高いですね。

『靴に住む老婆』、『十日間の不思議』、『ダブル・ダブル』に進まれて、そこから『オランダ靴ー』か『Yの悲劇』辺りに引き返してみるのがおつかもしれません。

私は、初読が『ローマ帽子ー』で、次が『九尾の猫』でしたから、なんかね、すごさを感じる前にクイーンがどうにかなっちゃったもので……本当は、刊行順に読まれることをお勧めしますよ。

 

 

「「そのとおりだよ、ワトソンくん。そして、封筒の蓋の”ローズマリー・ヘイト”の署名と、スティーヴの受取帳の”ローズマリー・ヘイト”の署名とは、同じ人間の手で書かれたものだった」

「つまり、あたしたち」パットは淡々と言った。「進展はまったくないってこ」

「いや」クイーン氏はかすかに笑みを漂わせた。「これまでは、あの女がジムの姉と思っていたにすぎない。いまや、それが事実だと知ったんだ。きみの原始的な頭でも、その差はわかるね、ワトソンくん」」(p126)

 

 

「「……そしてぼくは透視能力の持ち主じゃない」」(p462)