べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『帝王死す』エラリイ・クイーン

 

帝王死す (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-13)

帝王死す (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-13)

 

 

早川だから「エラリイ」なんです。

というわけで、こちらはクイーン復習ではなく初読。

クイーンの作品の中にいくつかある「密室もの」(他は、あれとか、それとか……かな……)の一つで、代表作かと。

 

ある日、エラリイと父リチャード・クイーン警視は、朝から何者かの侵入を受けた。

武装した一団のリーダーは、エーベル・ベンディゴと名乗った。

ベンディゴといえば、第二次大戦中に兵器産業で莫大な富をなし、「ベンディゴ王国」を築き上げた男。

どうやらエーベルは、その”キング”・ベンディゴの弟らしい。

彼は、キングに殺害予告が送られてきたことを二人に告げ、「ベンディゴ島」への同行を要請(この場合は、強制でもあるのだが)する。

それは、合衆国政府の望むところでもあった(クイーン警視が同行するのは、謎に包まれた「ベンディゴ島」の内部情報を入手することを期待されたからだ)。

極秘裏に連れてこられた「ベンディゴ島」は、まさに独立国といった風情で、世界各国の軍事担当者が訪れてはキングの協力を求めているらしかった。

キングの妻カーラ、キングの上の弟ジュダ(呑んだくれ)、側近の元レスラー・マックスなどと出会ったエラリイは調査を開始し、やがて殺害予告の送り主を突き止める(もちろん、それは島の中から出されたものだった)。

殺害時刻までもが示された脅迫状を、キングは恐れていなかった。

その時刻は、いつもの決まり通り、機密室で仕事をすることになった。

厚さ2フィートのコンクリート製の機密室には窓はなく、中に入るのはキングとカーラ夫人のみ。

頑丈なドアには2人の警備員が配置され、その向かいの書斎ではエラリイたちが固唾を飲んでいた。

やがて予告された時刻となり、幻の拳銃の引き金が引かれる。

時刻が過ぎ、エラリイが機密室の扉を開けさせて中に飛び込むと、そのデスクにはぐったりともたれかかるキングがいた。

カーラ夫人は床に倒れている。

キングの左胸には、間違いなく銃弾が命中していた。

密室で誰が、どうやって銃を撃ったのか?

 

というのが事件です。

ここまでで、物語の約半分を費やしており、ここにいたるまでに「ベンディゴ王国」のこと、そこで働く人々のこと、キングの家族のこと、キング自身のことなどが生き生きと描かれ、さながらイアン・フレミング描くところの悪役のようです。

世界中に影響力を持ち、独立国家にして独裁国家とさえ言える「ベンディゴ王国」は、書かれた当時(1952年)の世相を反映しているのでしょうか(第二次大戦の記憶、東西対立の顕在化……)。

あ、ちなみに、こちらが書かれたのは、レミングの『007』シリーズが世に出る前、ということです。

結局キングは一命をとりとめるのですが、エラリイとクイーン警視は犯人を探さなければいけません。

ちなみに凶器は、密室の外で発見されます。

さて、犯人は誰か。

どのようにして犯行を成したのか。

 

本格読みとして擦れていれば、密室のトリック自体は(トリックといえるのか)それほど難しくはないと思います。

ですので、それをどのようにして描くのか、が問題になるのですが、さすがクイーンとしか言いようがないです。

ミステリというのは、瑣末なことを大げさに書くジャンル、といってもいいかもしれません。

謎自体の魅力もさることながら、謎がどのように描かれるのか、が楽しかったりもします。

私にとって『帝王死す』は、小説技法としての巧みさをまざまざと見せつけられた感じがする作品でした。

現代でこそ、それも日本だからこそ、溢れかえる本格ミステリの数々に触れることができるため、この作品を読んだところで「?」な方もいらっしゃるでしょうが、50年以上前に書かれたと考えると、「いや、本当に、クリスティとカーとクイーンで、本格はやり尽くされているんだな」と思ってしまいます。

なお本作は、

 

有栖川有栖の密室大図鑑 (新潮文庫)

有栖川有栖の密室大図鑑 (新潮文庫)

 

 

↑で紹介されていますが、

 

「その上で、クイーンに心酔することでは人後に落ちない私は言いたい。ーーやはりクイーンは密室ものが下手だ。」(p105)

 

有栖川有栖氏に言わしめるだけの破壊力があります。

そう言われてみれば確かに、現代本格がかなり突き詰めるところの(カーがすでにやっていますが)、「何故密室が作られたのか」については、詰めが甘いと考えられます。

詳細に書いていませんが、古今東西でもかなり「あり得ない密室」なのです(そうですね……って、ネタバレに近いことを書きそうになりましたが……変な話ですが、二階堂黎人氏の短編〜中編に似ていると思います)。

それでも面白いんですよね。

密室以外の部分が。

やっぱりクイーンはすごいです。

 

 

「「小利口な連中だ」警視はうなるように言った。「しかし私がうけた教育では、お客が下着で出席したいと言ったら、主人も服をぬぎ捨てて出るものだ。ここの連中は自分たちを何だと思ってるんだ?」」(p74)

 

「ジェダはテーブル・クロスの上でやせた拳をにぎりしめた。「あんたは口先のうまい悪党だ。いつもそうだった。真実をねじまげ、手のこんだ嘘とつき、巧妙な策略で人をあざむくーーそういう手練手管の大ベテランだ……」」(p153)