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べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『虚構の男』L・P・デイヴィス

 

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)

 

 

多分、発売してわりとすぐに読んでいるのですが、何かこのころは、変な翻訳エンタメが読みたかったみたいで、帯の惹句にまさしく惹かれて購入。

<ドーキー・アーカイブ>という、選書に関して一家言ある(というか、非常に偏っている)国書刊行会のシリーズで、歴史に埋もれた様々なやつを引きずり出して本邦初公開(のものが多い)してしまおう、てな感じのようで。

 

 

1966年。

アラン・フレイザーは、イングランドの寒村に住む小説家で、次回作はSFになる予定だった。

2016年を舞台にした架空の伝記。

その構想を練りつつ、いつも通りの変わらない村の、いつも通りの変わらない面々(みんな知り合いだ)と挨拶しながら行会い、そして気づいた。

村道の行く手は門と、深い茂みと、鬱蒼とした森と、崖と谷に遮られ、その先に行くことはできない。

なじみの配達人の緑のバンは、この道を行き、引き返して来なかった。

突き当たりに行き合えば引き返す以外にないのに。

バンは消えてしまったのだ。

そのことを隣人に話すと、他の住人と話していたときにバンは戻ってきたのだという。

不審は残るが、アランは主治医のドクター・クラウザーの診察を受けた。

アランは事故で意識喪失を繰り返す、という体質になってしまっていたからだ。

おそらく、バンを見落としたのは、その意識喪失が数秒間隔で起こったのだという。

隣人と小説の構想について話し、村を散歩して、思い浮かべた主人公の名前はヘイガン・アーノルド。

自分が生み出した小説の主人公。

しかし、アランは、ある日かかってきた電話に驚愕を覚える。

その電話の男は確かに、「ヘイガン・アーノルドはいるか?」と言ったのだった……。

 

 

この辺りで、勘のいい読者(私以外)であれば、「ああ、あのパターンか」と気づくことかと思います。

書かれたのは1965年。

早いなおい。

記憶にまつわるサスペンス……と思わせながら、展開は某映画(◯◯・◯○◯ーの出ていたあれ)っぽく進み、ああそうそうこれこれ……と思っていたら、突然……てな感じで、もはやどんなジャンルなのかはさっぱりわからないエンタメになだれ込んでいきます。

冒頭のあたりから、いろいろと伏線は張ってあって、読み返せば「ああ、なるほど」とにやりとするのですが、「だからなんだ?」みたいな。

まあとにかくヘンテコな話で……これが『少年ジャンプ』だったら、普通の格闘漫画だと思ったらいきなり異世界に召喚されちゃった的なあれで、歴史の闇に葬られますな。

ま、だから発掘されたんでしょうが。

変な感じは堪能できましたので(変ではあるのですが、妙に真面目に書いてあって、それがなおさら変、という)、満足です。

ただまあ、国書刊行会なので、ちょっとお高めです。

 

 

「冷戦に関してはどうかな」とアランはいった。「ロシアはまだどっちつかずの態度でいるだろうか?」

「そのころ、われわれの最大の敵は中国になっているだろう。二〇一六年までには、中国は近隣諸国をーーおそらくはインドさえをもーー支配下におき、勢力圏を拡大している。中国が支配するアジアーー中華アジアだ。どう思う? 主人公の名前はまだ決まっていないのか?」(p30)

 

あんまり引用するとネタバレになりますので……これが人生初の翻訳エンタメだったとしたら、ずいぶんな衝撃を受けるだろうなぁ……。