べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『ささやく真実』ヘレン・マクロイ

 

ささやく真実 (創元推理文庫)

ささやく真実 (創元推理文庫)

 

 初……だったかなヘレン・マクロイ……でもウィリング博士のは何かで読んだな……あ、ちくまの『あなたは誰?』か。

 

奔放な美女クローディアは、知り合いのスレイター博士が開発した”自白剤”を手に入れます。

彼女は、パーティがあるとかなり悪趣味ないたずらをしかけることで有名でした。

クローディアの家の近くに別荘を借りたベイジル・ウィリング博士(精神科医)にとってはあまり関係のない話でしたが、妙な行き合わせでクローディアの夫を家まで送ることになり、そこでどうやら開かれるらしいパーティーの面々と顔を合わせます。

その夜のパーティーでは、どうやらクローディアによって、”自白剤”が飲み物の中に仕込まれ、誰もがその飲み物を飲んだらしく、疑心暗鬼と猜疑心の渦巻く中、様々な醜態がさらされます(何しろ集まっていたのは、旧来から様々な友誼を結んでいる人たちだったのですから)。

恋人を送り届けたウィリング博士は、未明になってクローディアの家の近くを車で通ります(借家への近道があるのです)。

寝静まっているはずの屋敷に、窓明りが一つだけ見えたので、火事ではないかと近づいたウィリング博士は、そこで絶命しているクローディアを見つけました。

容疑者は、パーティーの参加者。

 

というわけで、この作品は典型的なフーダニットであり、かつそこで用いられるある事象については、いくつかのミステリでも取り上げられていますので珍しくはありません。

決め手としては、ちょっと無理ないかな、と感じましたが……物証、決め手としては弱いんじゃないかと思うのですが、それでも解決の仕方で納得できるようには書かれています。

科学的な知見に基づいている、といえなくもないので(専門家でない私にはなんともいえません)、説得力自体はもちろんありますが、正直「う〜ん……」と思いました。

ただ、物語としてみると、登場人物は魅力的に描かれており、しかも伏線の張り方もお見事、ある事象の処理の仕方もひねりが効いていて、とても面白く読めました。

マクロイは再発掘されていくつか翻訳されているので、今後も読んでみましょうか。

 

「きみがいなくてよかったよ」ロジャーは錠剤の容器の蓋を閉めた。「この薬が悪いやつの手に渡ったら、それこそ恐ろしいことになる」

「たしかライト兄弟も同じことを言ってたわね」クローディアの唇にうっすら笑みが浮かんだ。(p18)

 

「あたしも!」ペギーが意気揚々と言う。「カクテルの名前は決まってるの、クローディア?」

「まだよ」クローディアは夢見るようなまなざしになった。「そうねぇ。闘牛士が使う、牛を殺す瞬間を表わす決まり文句があったわね。あれにしようかしら」

「”真実の瞬間”のことでしょう?」(p84)