べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『捕まえたもん勝ち!』加藤元浩

 

 

Q.E.D.』、『C.M.B.』と講談社が誇る二大ミステリ漫画(ほぼ本格、プラス実験的)を量産し続ける加藤元浩氏初の長編ミステリ、ということで、どちらの漫画も好きな私は買ってしまったですよ。

何となくね、霧舍臭を感じまして……(わかる人だけ……)。

毎月毎月、あれだけのミステリネタを書き続けられるというだけで脅威です(そういう点では、『名探偵コナン』も十分脅威的……最近は犯沢さんのほうがなぁ……)。

 

主人公の七夕菊乃は、子供の頃からある「黒いもの」が見えました、といってもオカルト的なものではなく、超自然現象的なものでもなく、いえ今のところ正体はわからないのですが……。

それはともかく、無謀な子供だった菊乃は大怪我を負ったり、借金を抱えた家を支えるためのバイトとしてアイドルになったら謎の死体消失事件に巻き込まれたり(そのたびに、謎の男性と出会うのですが……)、アイドルをとある暴力事件でやめたあとは大学に進んで公務員試験を受けて結果警視庁に採用されて……という辺りまでで、本の半分くらいです。

いや、これ、なかなかですよね……もちろん、途中で起きる事件も本格なんですが、それにしたって、本格ミステリで主人公の生い立ちから警察入りまで描いちゃうって……さすが少年漫画家、というところでしょうか(この辺りが、好き嫌い別れるかな……)。

で、警察に入ってからが本番なんですが、ここで登場するのが捜査支援分析センターという部署の捜査官と、心理学部准教授、という名探偵っぽい人たち。

鍵のかかった部屋で、硫化水素中毒で死んだ男性……事故か、はたまた他殺か(であれば密室殺人か)。

女性の墜落死体が発見されたマンション、その部屋の物置には夫が閉じ込められていた……どうやら殺人のようだが、この状況はどのように説明されるのか……。

 

といったように事件が続いていく中で、事件の進捗状況が犯人(と目される人物)に伝わっているのではないかと疑惑が持ち上がり、警察内部に裏切り者が……なんて話も展開し、深刻かつ複雑な様相を呈していく事件が、わりと淡々と語られます。

まあ、語り手(主人公:七夕菊乃)の性格のおかげなんでしょうけれども。

漫画の作風にも近いですよね、過剰に感情的な表現を使わないことで、より恐怖や絶望を表現するのが得意な作者ですから(個人的な意見です)。

方法を文章に変えたところで、どうでしょう、どこまで成功しているのか……まあ何しろ霧舎好きですから(<開かずの扉>シリーズから、<霧舎学園>シリーズへの、あの振り幅が許容できますから)、個人的には嫌いじゃないですが……うーん、ちょっとキャラクタが戯画的すぎるかもしれないですね……でもまあ、多分そういうところを望んでいる人が読むんだろうから……。

 

「こいつ本当に頭の回転が速い。

帽子男は『死因がわからないと、お父さんがかわいそうではないか?』という論旨から、『自分への疑いを晴らすために、解剖してはどうか?』と、切り替えたのだ。」(p65)

 

なお、登場人物の名前に東海地方、あるいは名古屋の地名が使われているのが、個人的にはツボだったりもしました(浅いツボ)。

作中のあるネタは、結構思いついたりとか、使われたりとかしているので、それほど驚きはないです。

不思議なもので、どうしても、加藤元浩氏のキャラが動き回っている漫画のように思えてしまうのは、私の感受性の問題だと思います。

なおなお、すでに続編が出ています(買うか、買わないかは、私の積ん読消化次第です)。