べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『シャーロック・ホームズたちの冒険』田中啓文

 

 完全に私の中ではSFな人の田中啓文氏……ひょっとして著作を読むのは初めてかもです……。

短編集大好きなのです。

本作は、歴史上の人物や著名なフィクションの登場人物が出会う謎を、その人物らしく解く、というものです(多分)。

 

まずは、「スマトラの大ネズミ事件」、もちろんシャーロック・ホームズ

シャーロキアンの間では有名な「スマトラの大ネズミ事件」について書かれています。

ライヘンバッハの滝で、仇敵モリアーティ教授と死んだかに見えたホームズが復活したあと、それまでとはキャラが変わっていた、というところに着目するシャーロキアンは多いようで、パスティーシュでもその辺りをついてくる作品が多いです(最近では、二次創作というべきか、『金田一少年ー』的にモリアーティを主役に据えてっていう……海外でもありましたよね、モリアーティが主人公のやつ、昔読んだ気がします……のもありますよね、多分)。

高田崇史氏は、パスティーシュではなく、謎解きとしてやってますね(とても好みでした)。

 

QED ベイカー街の問題 (講談社文庫)

QED ベイカー街の問題 (講談社文庫)

 

 

まあ、なんでしょう……切り口的に「ん?」と思っていたら、予想外の(本当に予想外の)展開だったので、最初は面食らってしまいまして……ちょっと露骨な伏線とか、田中氏の著作とかから、こういう方向性もありだな、とこれっぽっちも思わなかった自分に反省。

怒る人もいるかもしれませんが、私は嫌いじゃないですよ(もうちょっと、伏線がほしかったかなぁ……)。

 

続いては「忠臣蔵の密室」。

ご存知旗本退屈……違う、年末の風物詩としてもすっかり擦り切れてこすりすぎじゃないか、な感じのする『忠臣蔵』です。

冒頭から明かされているので書いてしまいますが、赤穂浪士が討ち入って発見した吉良上野介、すでに事切れており、しかもそれが他殺、そして状況的には「密室」……という、なんかこういうネタ得意な人がいたなぁ……

 

漂流巌流島 (創元推理文庫)

漂流巌流島 (創元推理文庫)

 

 

……は、八年前?

そらジジィになるわけだ……。

あ、「忠臣蔵の密室」は、しっかりした本格短編ですのでご安心を。

私は、『仮名手本忠臣蔵』、読んだことないですけれども。

 

次は「名探偵ヒトラー」。

この本を読む前に、『帰ってきたヒトラー』とか『ゲルマニア』とか読んでいて、何となくそんなブームにシンクロしたなぁ、という感じでした。

ヒトラーが側近と、シャーロック・ホームズごっこをするわけですが、うん、この内容は非常に好きですね、面白い。

ヒトラーのオカルト趣味、その権力の大きさ、「ロンギヌスの槍」、といったものを絡めて、こういうまとめかたができるのか……とちょっと感動したほどでした(いや、好きなネタなものでね)。

 

「八雲が来た理由」は、ラフカディオ・ハーン小泉八雲)を主人公とした作品で、これまたSF作家としての顔を持つ田中氏でしか思いつかないようなネタになっているかと思います(あ、ミステリ部分の話ではないです)。

書きすぎると興を削ぎますが、まさにタイトルの通りで、とある伏線がなかなか効いているのかもしれないです(?)。

こういうの、うまくやらないと陳腐になるんですよね……そこはさすが、と思いますが、なんだろう、最後のネタが個人的には……書かずにいられない作家の性、ということにしておきますが……。

 

「mとd」は、ホームズで始めたらルパンで終わる、というのが礼儀なので(?)、アルセーヌ・ルパンの登場です。

うん、そうだな……正直、「それか……」とちょっと脱力しました(いや、この手のネタをわりと読んでしまっているので……この処理は、実に便利だったりするので、上手に料理しないといけませんね……)。

私、ルパンものも(ジュブナイル版はけっこう読んだ気がしますが)あまり詳しくないので、なんとも言いがたいのですが、なにしろルパンが出てきて、何しろパスティーシュの短編集ですので、もちろんホームズが登場します。

ルパン対ホームズ……それだけで心踊ります(今、ルパンレンジャーは警察と戦っているようですけれども)。

 

というわけで、思わずツッコミを入れたくなるようなパスティーシュがお好みの方にはおすすめです(そこも含めての、田中啓文氏の味なのかなぁ……)。

ガチ本格だと、まあそうですね、やっぱ芦辺拓氏の、

 

 

↑これかなぁ……。