べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』ピーター・トライアス

 

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

 
ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

もう二年半以上前か……最近本を全く読めていないもので、過去に読んだもののメモを必死で残しているんですが、まぁ大変……時間が……。

 

SFはときどきしか読まないのですが、どうしてまたこういうネタのものを読んだのかといえば、それより少し前に『パシフィック・リム』を見たからで、ついでに『高い塔の男』を読んだり、『帰ってきたヒトラー』を読んだり、『ゲルマニア』を読んだりして、ちょっとした第三帝国ブームだったからのようです……そんな記憶も曖昧。

ストーリーとしては、第二次大戦で日本(とドイツ、枢軸側)が勝利したあとの日本統治領であるアメリカ西海岸を舞台に、日本合衆国の崩壊を目論むアメリカ人レジスタンスの暗躍と、それに協力したのではないかと疑われる日本軍の将軍の行方を追う、皇軍の検閲局に属する石村紅功大尉と特高の槻野昭子の活躍……ううん、ざっと書くとなんだかよくわからないですが……。

そうですね、『高い塔の男』もそうでしたが、この手の歴史改変ものというのは、いかにしてそこにリアリティを与えるのか、ということが重要なのでしょう。

その点、この作品は、かなりの水準でそれをクリアしているだろう、と思わせるものがあります……というのもですね、作者が通過してきた日本文化、というものが、我々世代が通過してきたものとほとんど変わらないから、だと思うのです。

書いている人間と読んでいる人間の背景が共通しているので、共感性も高かろう、というものです。

で、ポイントなのが、おそらくは西洋人が苦手としているであろう、「第二次大戦に勝利した日本」を描いているところ(ドイツじゃない)で、それも著者が韓国系アメリカ人である、という点が関係しているのだと思います(といっても、私には◯◯系◯◯人、という出自、アイデンティティを持つ人のことはよくわかりませんし、理解も難しいので、そうではなかろうか、と思うくらいです)。

日本人には若干違和感を覚える部分は当然あるのですが、そんなこといったら日本の漫画アニメだって違和感ばっかりですので、世界観を支える、という意味で一貫しているのは好ましいのではないでしょうか。

歴史改変もの、をほとんど読んだことがないので、作法なんかがわかりませんけれども、『USJ(日本合衆国)』の世界では、アメリカを取り戻すために『USA』というゲームが密かに流通している、という設定(『高い塔の男』も似た要素がありましたか)で、つまり「歴史改変もの」というジャンルはそもそもがパラレルワールド的なので、何かしら現実との対比をにおわせずにはいられないんでしょう……か?

何だろう……一種のロー・ファンタジーになるのか、異世界転生ものとか、タイムスリップものとか、パラレルワールド系の表現方法の一つ、なんですね歴史改変もの……タイムリープものは嫌いな私ですが、歴史改変ものはそれほど嫌いじゃないなぁ……まあ、オーウェルの『1985』だって、歴史改変もの……あ、ちょっと違うかな、SFには違いないので……社会科学だって科学なのだ、という意味では、SFですよね十分。

ガジェットも、一昔前だと、ハリウッドとかで使われるものに憧れなんかがありましたが、今では日本のサブカル系ガジェットのほうが異形な感じが強くてね……でも、必要最低限の説明でガジェットの存在を納得させるのはハリウッド系がまだまだ得意かなぁと思ったりもします……ベースが映画だと、尺が決まっているので、そこまで見せていられない(設定は別)、日本だと結構説明しちゃう……説明したいのかな……あ、でも『攻殻機動隊』とか『FSS』は説明しないほうですが……何の話だっけ。

あ、ストーリーはかなり骨太で、ハリウッド的ではあるので、大変な目に合うわけですが、翻訳のおかげなのか、非常に読みやすいです(硬質な感じは、『アップルシード』的な……まあ、あれもハリウッド的といえばそうか……)。

また、プロットが秀逸ですね……叙述も丁寧、まあミステリではないので伏線どうこう目くじら立てる必要はないですが、主人公も著者も抑制的だな、と感じました(?)。

どうやら続編が出ているようで……あれ、映画化するんでしたっけ(したらしたで、いろいろと……特に皇軍の描写とか陛下云々のところが微妙だろうなぁ……)、機界があれば読んでみたいと思います。

たまのSFはいい(いつもSFはしんどい)。

 

「「世界でただ一人、嘘をついてはいけない相手はだれだと思う?」

昭子はしばし考えた。

「自分か」

「それでもみんな嘘をつくけどね」

「それでもみんな嘘をつく」昭子は同意した。」(下巻、p184)