べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『エデンの祭壇』ジェームズ・ロリンズ

 

エデンの祭壇(上) (扶桑社ミステリー)

エデンの祭壇(上) (扶桑社ミステリー)

 
エデンの祭壇(下) (扶桑社ミステリー)

エデンの祭壇(下) (扶桑社ミステリー)

 

 久々、ロリンズさん。

<シグマフォース>シリーズは順調に巻数を伸ばしておりますなぁ……ここ二年ほどは全然本を読めていないので、ちょっと心を入れ替えて、読書に勤しもうかと。

ま、これは三年前に読んだ本ですけれどもな。

ロリンズさんは、ノンシリーズのサイエンス・スリラーも面白い。

ノンシリーズだからこそ、の切れ味があります……まあ、ちょっと<シグマ>絡んだりしますけれども……だから、同じ世界観なんだと思います、アメコミおなじみマルチバース的なものなのかも……(<シグマ>以外でも、世界はかなりの頻度で滅亡の危機に瀕していますな……そらもう『名探偵コナン』の世界の犯罪発生率みたいなものかもしれないです……)。

今回は、割と大型ネコ科肉食獣、にスポットが当たっています(が、絵がないのでなかなか……<シグマ>でモンクがトラと戦ったところなんかは絵が浮かんだんですが、あんまり知らないからかなジャガーのことを)。

オーデュポン稀少動物研究センターの獣医をしているローナ・ポークは、センターに持ち込まれたある案件で、旧知のジャック・メナールと再会します。

ジャックは、かつての恋人の兄でした。

がそれはともかく、密漁船らしきものから見つかったのは、どこかしらに変異を抱えた動物たちでした。

調査をしてみると、これらの動物たちには、染色体異常が見られることがわかりました。

本来、あるはずのない染色体が一対、多くなっています。

それも、動物の種が異なるにも関わらず、「同じ染色体」が。

 

「カールトンがモニタ画面を指で突いた。「自然のいたずらじゃないんだ。人間の仕業なんだよ。何者かが、この動物たちのそれぞれに、余分な一対の染色体を入れたんだ」」(上、p94)

 

このあとは、この遺伝子操作を行った組織を突き止めるべく、ジャックとローナは部隊を率いて探索に出るわけです(いつも通り)。

著者が常に尊敬の念を絶やさない、地域のことを知り尽くしている古い知識の持ち主たちも出てきますし、相変わらず動物への関心と愛情がたっぷりとつまっているのが、ワニのショーに登場する年老いた巨大ワニ、最初に発見された剣歯ジャガーの仔とその母親、円周率を言い続ける羽根のないオウムなどなど……でよくわかります。

<シグマ>では、軍事的な絡みが多いので、こちらも驚くような悪の秘密基地(?)が出てくるのですが、ノンシリーズはどうしても軍から離れているので、島とか極地とか……それでも、これだけアイデアが出てくるところはすごい、と単純に思います。

ロリンズさん、ハリウッド的でもあるので、エンディングもシニカル、かつ「なるほどな」という感じで、この辺りもうまいなぁ、と。

自分でもSF的なネタを探してみようと思っても、最新の研究は英語を読めないとなんともなりませんし、それこそ軍の知識なんかが豊富でないとね……勉強すればいいんですけれど、なかなか……。

本作は、秘境冒険に移る前に、ニューオリンズ周辺でのドンパチが繰り広げられます(どうやら、作者がニューオリンズ出身だということで)。

ワニのショー、と聞くと、個人的にはクマ牧場と熱川バナナワニ園を思い浮かべてしまいますが、バナナワニ園はともかく、クマ牧場を舞台にドンパチやると、日本では面白いかも……いろいろ物議を醸しますかね。

あと、バナナワニ園、まだあるんでしたっけ?

ノンシリーズにしては、ラスボスも弱めですが、最後に一捻りあるので、さて我々は何と戦うのか……。

 

「いま手を伸ばせば、触れそうなほど近かった。

そうした気持ちもあったーー存在を確かめたいーーそして一瞬でもいいから、この世界に属さぬ存在と心を通わせたい。その目の輝きに、ローナは底知れぬ深淵を感じ取っていた。自分を見つめているのは、単なるネコ属の動物ではないのだ。」(上、p245)

 

ネコ派の人は、十分に楽しめます(が、少々辛い)。

爬虫類派の人は万歳。