べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『青鉛筆の女』ゴードン・マカルパイン

 

青鉛筆の女 (創元推理文庫)

青鉛筆の女 (創元推理文庫)

 

 

本格ではない、ミステリなのかと言われるとなんだろう、と思ったりするのですが、面白かった。

帯にも、三重構造の「驚異のミステリ」とあり、第二次大戦中に出版された日系人作者によるスパイ小説、その作者による小説の改訂版と称する原稿、編集者の女性とやりとりしている書簡、で物語は進んでいきます。

メタ構造で、というか、「書かれたもの」しか登場しないので、物語が進む、という言い方が正しいのかどうかもわかりません(こういう、テキストで進んでいく話といえば、日本で言えば折原一さんでしょうか……何度も言及していますが『イデアの洞窟』という小説が私は大好きです、あれはすごかった……話がどうこうではなくて、ネタが)。

この手の構造は、あったといえばあったような気もするし、なかったといえばなかったような気もするし……面白いのは、書籍とその改訂版原稿の関係性、そして編集者(「青鉛筆を入れる」というのが、あちらの校閲のやりかたらしいです)の意見がその関係性にどう絡んでいるのか、というところで、本格読み好きのトリックやパズラー的な要素はないわけですが、時代背景、作家と編集者、書きたいものと書かれるべき(と考えられる)もの、浮かび上がってくるものを想像すると、エンターテインメントの中で重みある主題が表現されており、同時に「青鉛筆の女」の……おっと、やめておきましょうか(メタなものは、書きすぎるとねぇ……ネタバレがね……)。

著者は、シナリオライターだったりゲーム製作に関わっていたりするようで、村上貴史氏の解説にしっかりと書かれているのでぜひそちらを参考にしていただいて。

他の著作が出たら呼んでみたいな、と思いました。

 

「一方、捨ててしまった候補ウィリアム・ソーンのほうが、じつはペンネームとしてずっと強いと思います。わたしは長年この仕事をやってきて、読者というのは名前に長母音の入っている登場人物を強いと思うものだと気付きました。」(p49)

 

「「おれは昨夜、コーヒーショップに坐って本を読んでいたんだ」チャーニチェクは言った。「ヘミングウェイの新作、『誰がために鐘は鳴る』あd。サンペドロのウィリアムス書店で買ったばかりだった。十ページも読まないうちに……」

「あんたが本を読むとは思わなかった」スミダは口をはさんだ。

チャーニチェクは彼をにらんだ。

「いや行動(アクション)の人という意味だよ」スミダは言い添えた。

ヘミングウェイにはアクションがどっさり出てくるぞ」」(p127)

 

「「あんたがマダム・ペリンスキーだね?」

「ほかの誰だと言うんだい?」

こちらの質問に別の質問を返されたときは、たとえそれが一見無害な修辞疑問のたぐいであっても気をつけたほうがいい、ということくらいジミーは知っていた。」(p227)