いっとき、昭和初期までのミステリを読んでみよう、という時期がありました。
江戸川乱歩はもちろん、横溝正史、海野十三、久生十蘭……あたりでとまってしまったのですが。
本当は、小酒井不木、大下宇陀児、甲賀三郎あたりまでいって、そこから黒岩涙香までたどれればいいなあ……と思っていました。
こらえ性がなかったようです。
というわけで、先日発売になった海野十三の作品集『獏鸚』。
基本的に、名探偵である帆村荘六(シャーロック・ホームズのもじり)が登場する作品群です。
ちくま文庫から発売されている、
怪奇探偵小説傑作選〈5〉海野十三集―三人の双生児 (ちくま文庫)
- 作者: 海野十三,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2001/06
- メディア: 文庫
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↑こちらとも幾分かぶっていますが、内容はほとんど覚えてなかったのでよかったよかった(さすがに、最後まで読むと結末は思い出しましたが)。
「麻雀殺人事件」「省線電車の射撃手」「ネオン横丁殺人事件」「振動魔」「爬虫館事件」「赤外線男」「点眼器殺人事件」「俘囚」「人間灰」「獏鸚」。
いやあ、タイトルを見るだけでも時代を感じます。
いかにもミステリなタイトルより、乱歩風な怪奇小説っぽいタイトルの方がいいですね(ラノベに出てきそう)。
古典ですので、読むとかなりの無茶を感じますが、物語としては十分に面白いものが多いです。
文体もあの時代のものなので、馴染みがないと少々読みづらいかもしれません。
「麻雀殺人事件」は、帆村の目の前で麻雀を打っていた四人のうち一人が殺される、という事件。
たった三人の容疑者の入り組んだ関係性にちょっとめまいがします。
「省線電車の射撃手」は、電車に乗っている女性が続けざまに狙撃される事件。
帝都の省線電車(JRの前の国鉄の前)でばんばん狙撃事件が起こるなんて恐ろしい限りですが、なかなか思い切ったトリックが使われています(現実に試すには危険すぎますが)。
「ネオン横丁殺人事件」は、カフェで起こった射殺事件。
よくひねり出したな、という感じのトリックでした。
「振動魔」は傑作で、タイトルからトリックがばれそうな勢いですが、きちんと一捻り加えられているのは、昭和初期とはいえ本格ミステリの矜持といいましょうか、見事です。
「爬虫館事件」は、動物園の爬虫類館で消えた園長を探す事件です。
うーん、結末が哀愁を漂わせながらも残念なプロットだと思います。
内容は、怪奇に近いですね。
「赤外線男」は、人間の目には見えない「赤外線男」が暗躍する話。
何がすごいって、警視総監が殺されますからね、それだけでも価値があります(?)。
「点眼器殺人事件」は、なぜか名探偵帆村荘六が誘拐され、奇妙な場所で起きた怪奇事件を解決する羽目になるという、ちょっとコメディっぽささえ漂う話。
本書のトリックはたいてい「そんな馬鹿な!」なんですが、この事件こそ「そんな馬鹿な!」にふさわしいと思います(非現実的、という意味ではなくて、そんな話をわざわざ書くのか、というところ、でしょうか)。
「俘囚」は、これまた乱歩風な怪奇な話。
本格としてもよくできていると思います。
似たような話が……あったようななかったような。
是非とも映像で見たい作品ではありますね(怖くて私は見られません)。
「人間灰」も怪奇ですね。
でも、プロットが抜群にうまいです。
「獏鸚」は、ある密書に書かれた言葉で、なにやら暗号めいています。
その意味を解き明かすのが帆村探偵の目的なのですが、単語の麗しき怪奇さに比べて、解決は少々切ないあっさり感かな、と思います。
暗号というよりは合言葉で、こんなもんに気づいた帆村荘六がすごいわ、ってな話で。
海野十三は日本SFの先駆者と言われ、科学的トリック(現代でいうところの「機械トリック」)を多用した推理小説を書いています(本書の大部分が、その「科学的トリック」というやつです)。
独創的な機械の場合もあれば、物理現象を利用したものもあります。
そうですね……森博嗣氏みたいな感じでしょうか(?)。
一歩間違えば怪奇、ホラー、そこを通り越してもはや笑ってしまう作品もありますが、昭和初期によくこれだけのことを考えたものです。
うーん……あ、そうか、あれですね、江戸川乱歩と手塚治虫を足して二で割ったような作品が多いのではないかと思います(印象)。
叙述トリックもそうなのですが、「機械トリック」もちょっと書き方を誤ると全部ネタバレしそうになるのが恐ろしいです。
ですので、引用はできません。