べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『彼女は存在しない』浦賀和宏

 

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

 

 ずっと避けていた作家さんがいらっしゃいまして、その一人が浦賀和宏氏でした。

まあ、佐藤友哉氏を読んでいたのに何を今さらな感じなのですが、感性が自分と近いような気がしているもので、なんとなく読むのをためらうのですよね。

個人的な感覚ですので。

しかし、12年前か……ああいえ、↑のリンクで引用されているブログの数からも、結構な人気であることがわかると思います(ラノベに比べれば、そりゃ少ないんですが)。

 

香奈子は、今となっては珍しくもない、あまり家で過ごしたくないタイプの女子だった。貴治という特定の彼氏が今はいるので、彼の家に入り浸ったりしている。その日、貴治とのデートの待ち合わせで横浜駅にいると、知らない女性に話しかけられた。「アヤコさんですか?」と訊ねられるが心当たりはない。デートを終えて駅前に戻ると、まだその女性はいた。しかも、どうやらよからぬ若者達(=不良)にからまれているらしい。貴治と一緒に彼女ー由子を助けた香奈子は、なぜかそのまま彼女も一緒に貴治の家に行くことになってしまった。

根本は大学四年生。恵という恋人がいる。複雑な家庭環境で育った根本だったが、今現在彼の悩みを複雑にしているのは、妹の亜矢子の存在だった。かつて根本の家で起こった出来事のため、亜矢子は精神に深い傷を負っているらしい。そして、どうやら多重人格を患っているようなのだ。ときどき根本が全然知らない人格になっていたり、亜矢子に戻っていたり。友人もろくにいないはずなのに、昨日は横浜まで出かけていたという。一体、亜矢子は誰と、何をしているのか。

 

というわけで、多重人格もののサスペンス(?)なのですが、多重人格ものであるだけに、これ以上中身に触れることが難しい、というなんとも切ない状況です(真相を回避しつつ内容を紹介するだけの文章力が私にはありませんので、文末の千街晶之氏の解説を参照してください)。

面白かったです。

あるシーンが、容易に予想がついてしまったのが残念ですが。

私ならきっとそうするだろうな、という展開だったので……ミステリ読みはすれてくるとだめですね……あ、トリックが解けたとかそういうことではないですよ、暗い展開が私の発想と似ていたというだけです(私なら多分書けませんけど)。

こういった多重人格ものは、ミステリにとっては非常に便利で、様々な使い方ができますが、一方でマ○○○・○○○ドのあれみたいに「おいおい」というツッコミ待ちみたいなものもあり玉石混交です。

読者を騙す、という点において、本作は非常に美しい構成をしています(しかも、アンフェアではない)。

殊能将之先生の『ハサミ男』も、私の中ではかなりの衝撃だったのですが、こちらはそれ以上かもしれないです。

ハサミ男』はなんと映画化される、という恐ろしい展開を迎えましたが、さてこちらを映画化するのは……そういえば乾くるみ氏の『イニシエーション・ラブ』が映画化されてましたね(観るの忘れた)……あれに挑むよりもひょっとすると難しいのかもしれません。

誰かやってみよう、という蛮勇溢れる方はいらっしゃいませんか。

私は観ませんけど(あのシーンが見れないですわ私には)。

 

で、これから浦賀氏を追いかけるかというと、多分無理です。

面白いのはわかりました。

感性が近いのもわかりました。

だからこそ、読みたくない、というわがまま、でしょうか。

70歳くらいまで生きたら考えます。