べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『奇譚を売る店』芦辺拓

 

奇譚を売る店 (光文社文庫)

奇譚を売る店 (光文社文庫)

 

 

三つ子の魂百まで、とはよくいったものですが、何しろ芦辺拓ファンなものですから……。

といっても、普段の幻惑の本格ミステリではなく、連作短編集。

それも、いわゆる<奇妙な味>的な……いや、そうでもないか。

 

これは、古書店で見つかる奇妙な本を巡る、6つの物語。

 

『帝都脳病院入院案内』は、小説家が話のネタにならないか、と手に取った病院のパンフレットです。

妙齢な女性が、電気ショック療法を与えられている場面の写真が掲載されている、といういささか偏った趣向のもののようです。

小説家は、病院の見取り図を元に、建物を再現するのですが……。

 

『這い寄る影』は、戦前戦後のカストリ雑誌に連載されていたらしい探偵小説を、その雑誌から切り取り、貼り集めて作られている、私家本のようなもの。

内容もエログロナンセンス、醜悪な描写がありながら、展開されるトリックはいたって陳腐。

登場するのは、少女歌劇出身の名探偵・満天星子。

その時代を味わうものとして楽しんだ購入者は、後日、文学賞の選考委員もつとめるミステリー作家の友人と話して驚きます。

なんと、最近のある賞に、満天星子の登場する作品が応募されていたというのです。

それも、古めかしい、昭和初期の面影を残した作品が……。

 

『こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻』は、『月刊少年宝石』という漫画雑誌に連載されていた、少年探偵ものの漫画。

子供の頃に読んだ懐かしさから、古本屋で購入したのですが、購入者は記憶と異なっている点があることに気づきます。

「X探偵局」を営んでいた、名探偵・十文字竜作が出てこなくなっていたことだ。

エピソードは途中で終わっていると思われましたが、雑誌のハシラ(ページの端っこに、縦書きにされている次回予告など)には、事件が終わったと書かれていました。

しかし、事件は解決していません。

購入者は続きが読みたいと望みましたが、それは叶わない。

であれば……。

 

『青髯城殺人事件/映画化関係綴』は、ミステリマニアの間で奇書と呼ばれた『青髯城殺人事件』の映画化を記録した資料。

日独の一流映画人を揃えて撮影されることになっていたらしい中でも、主演女優のポートレイトが印象に残りました。

後日、購入者は仕事の関係で、ある映画スタジオに取材に行きます。

『青髯城ー』を撮影した映画会社ともつながりのあるスタジオで、購入者は、あの主演女優そっくりの少女と出会うことになるのです……。

 

『時の劇場・前後篇』は、ある家族の壮大な物語。

購入者は、かつてそれをどこかで目にしたことがある、と思いましたが、彼の知る『時の劇場』は前後篇ではなかったはず。

紆余曲折があり、前篇しか手に入れられなかった彼は、それを読みふけり、そしてどうやらこの物語が、彼の一族をモデルにしているらしいことに気づきます。

前篇の最後には、「後篇・主人公の章に続く」との文字が。

その主人公とは、自分なのでしょうか……。

 

最後は、『奇譚を売る店』……。

 

こういった趣向は、物書きであれば一度は思いつくのではないか、という感じです。

ただ、そのエピソードがいちいち面白いのが悔しいです(?)。

短い中で、的確に特徴が説明され、さらに購入者が巻き込まれていく運命……ああお見事。

こういうことができると、創作って面白いんだろうなぁ……はぁ。

 

 

「トリックは陳腐、どころかないも同然。密室トリックは秘密の合鍵を使った結果、殺されたはずの妻が生きて姿を現わすのは、実は双子の姉妹でした。完全無欠のアリバイの真相は、双子が共犯でしたーーといった具合。作者は人間の体が手軽にバラバラにできるとおもっているらしく、ほんの数分間で被害者の首を切断して持ち去ったりする。」(p62)

 

 

……いえ別に、特定の作品について何か物申しているわけではないと思いますよ、はい。