- 作者: エラリー・クイーン,竹中,越前敏弥,国弘喜美代
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2013/03/23
- メディア: 文庫
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クイーン復習シリーズその2。
『オランダ靴ー』は、ご存知の通り、<国名シリーズ>でも屈指の人気作かつ完成度の高い作品だと言われています。
登場人物表に並ぶ33もの名前だけで悶絶します(?)。
クイーン氏は、ある要件でオランダ記念病院を訪れていた。
友人のミンチェン医師に、死後硬直に関するアドバイスをもらおうと思っていたのだ。
首尾よく情報を手にいれたクイーン氏は、そのまま病院のオーナーであるアビゲイル・ドールンの手術を見学することになった(ここには劇場型手術室というものがあるのだった)。
アビゲイルは重度の糖尿病で、おまけに胆嚢破裂の状態にあった。
もともと、慢性虫垂炎を患っていた彼女は、来月にも手術を受ける予定だったが、胆嚢破裂のためフランシス・ジャニー医師の執刀の元手術が行われることになった。
手術前のジャニー医師と会談していたクイーン氏とミンチェン医師だったが、突然のスワンソンという来客にジャニー医師は席をはずす。
関係者が集まる中、手術は定刻通りに始められた。
糖尿病のため、血糖値を下げる処置を十分に行ってから手術は開始された。
が、すぐに現場は騒然となる。
患者であるアビゲイルは、すでに屍となっていたのだった。
クイーン氏が関係者から尋問をすると、奇妙な点が浮かび上がった。
手術室、その控え室、麻酔室には、何人かの出入りがあったことがわかったが、どうやら執刀するジャニー医師に変装した何者かが入り込んだらしいのだ(医師は歩き方に特徴があるため、そうと誤解されたようだ)。
やがて、病院内の捜索により、犯人が使用したと思われる手術着(ジャニー医師に変装したときに用いたもの)などが発見される。
クイーン氏は、その中にあった靴に着目する。
その靴は、靴紐が中程で(三番目の穴の辺り)切れていたらしく、何者かが粘着テープを使って靴紐をつなぎ合わせていた。
「ようやく手がかりをつかんだ」とクイーン氏はほくそ笑んだ。
というわけで、ここからエラリーは様々な関係者から話を聞き、アリバイを確認し、人間関係を洗い出し、ついには容疑者を絞り込んでいきます。
決め手になるのが、靴紐の切れた靴。
そこから、論理的に(あくまで、本格ミステリ空間での論理ですが)犯人にたどり着くことができる、というわけです。
我々はエラリーと同じ材料を提示されているので、同じように考えれば、同じ結論に達することができるはずですが、何しろ凡俗な身、様々な反論を打ち砕くだけのものを明確に提示することはなかなかできません。
「読者への挑戦」入り、しかも本編中に自分の推理を書き込むために余白が多くとってあるページがあるのです、がんばってみないわけにはいかないでしょう。
あ、もちろん、初読のときも、今回も、きっちり細部まで詰めた推理なんて私には不可能でしたよ。
思い出しながら考えても、あれを忘れていたりとか、そうかあれはそうやって使えばよかったのかとか、モヤモヤすることばっかりで。
他の「読者への挑戦」入りでも、犯人が当てられたことなんてありませんしねぇ……『月光ゲーム』なんて、まったく当たる気がしなかったし……。
何にしても、<国名シリーズ>を読むのであれば、こちらをお勧めします。
『エジプト十字ー』も捨てがたいですし、『ジャム双子ー』もヒリヒリしていいですし、『アメリカ銃ー』は……何がどうなっていたんだっけな……とりあえず『ローマ帽子ー』よりは先に読んでいいと思います(あれは面白いんですが、何しろ読みづらいので……あ、個人の感想です)。
ああ、やはりクイーンくらいは制覇しておきたいですが、なかなか手に入りづらいのもあるんですよね……。
「警視は笑顔で言った。「よくやった、トマス、みごとだ! 聞いたか、エラリー」息子のほうを見ながら叫ぶ。「お前は女王の恵みを賜ったらしいな。われわれの探す殺人犯はまだこの建物のなかにいる。逃げられるはずがない!」
「たぶん逃げる気なんてないさ」エラリーは冷静に言った。「ぼくは運に期待しすぎないようにしてる……」」(p98)
運に期待しすぎないようにするには、プロットが重要です。
クイーンのプロットは抜群にうまいのです(というか、手がかりを配置するのがうまい、というべきか)。
探偵小説のプロットと、小説のプロットが高いレベルで融合していることが、本格ミステリとしての完成度を表すとするならば、前回の『災厄の町』もそうでしたが、身震いするほどの完成度です(そういえば、『オランダ靴ー』の犯人は……おっと、ネタバレネタバレ……そう、ちょっとだけ、あれを思い出しました……◯◯◯・◯◯◯◯ーのあれ……全然違うのですが、何か印象が……)。