ときどき、思い出したように、笹沢左保氏のミステリを読みます。
面白いのです。
こちらは短編集ということで、またそそられまして。
基本的には、新宿淀橋署の宮本部長刑事と、警視庁からやってきた佐々木警部補、という二人の警察官が事件に挑む体裁をとっています。
「武蔵対小次郎」、というわけですね。
現場叩き上げの宮本刑事と、いわゆるキャリアの佐々木警部補が、お互いをライバル視しながら難解な事件に挑む、という、二時間ドラマにぴったりな設定ではないですか(超褒めてます)。
ひょっとすると、昔『火サス』とかでやってますかね。
全部で7つの事件が収録されているのですが、それぞれの短編が、結構込み入った設定を使用しているので、なかなか骨太です。
書かれた年代(1980年)を考えると、時代がかった読み物、という印象にもなりますか(それがまたよかったりするのですが)。
それぞれを説明すると、短編の中身をほとんど書かないといけなくなりそうなのでやめておきます。
章題くらいは書いときますか……。
「日本刀殺人事件」(ある富豪の家から、日本刀が盗まれ、それが殺人に使われます。2時間ドラマ向きの設定、人間関係が使われており、まずまずの効果をあげているように思いますが、いかんせん短編なので……見破られやすいと思います)。
「日曜日殺人事件」(スクープ連発の雑誌記者と、その出版社の弁護士が登場します。雑誌記者の行きつけの喫茶店での行動が、事件の鍵を握っているのですが、ポイントはそこではない、というのがいい感じですね。これも、2時間ドラマ向きの人間関係かな)。
「美容師殺人事件」(ファームに落ちたプロ野球選手の恋人の美容師が殺害される事件が起こります。野球選手が出てくればあれか、と思われると思いますが……ま、やめときましょう。それよりも、動機の解明に重点をおいて読んでいってみると、個人的にはかなり好きな話なのでした。動機です、動機)。
「結婚式殺人事件」(結婚式場に、強盗殺人犯が侵入する、という異常事態に際し、たまたま現場に居合わせた刑事が対処しようとするのですが、逃げ場のない状況で犯人は姿を消し、刑事とその娘が殺害される、というさらなる異常事態。なかなかです。こちらもやっぱり、動機ですかね……)。
「山百合殺人事件」(とある電機メーカーの常務の娘が殺害され、その現場に山百合の花が落ちている、という絵画のような状況。ですが、その娘はオールドミスで、何とか結婚したものの夫婦間は冷え切っており、当然容疑は夫に向かう、しかし夫にはアリバイがあったのでした……というところで終わっていればまあ普通の2時間ドラマなのですが、ここからの一捻りが結構ブラックだな、と思います)。
「用心棒殺人事件」(売れっ子芸能人夫婦の娘が、強盗を撃退してしまい、大いにフラッシュを浴びる、というバブル全盛ちょっと前にありそうな設定……かな?そこから時の人となった娘が、強盗の弟分に脅されたり、家に居着いていた親戚兼用心棒が殺害されたり……なんだろう、これは倒叙ものとかノワールっぽく書くほうが面白いのではなかろうか……)。
「放火魔殺人事件」(放火魔と、その放火を予告してくる謎の女の話。なんでしょう、飛び切りのメルヘン、といった感じがありますね。「八百屋お七」的なところは……あんまりないですが。最終的に放火魔は死んでしまうわけですが……いろいろと切ないところがあり、もうちょっと作り変えれば、いい感じの2時間ドラマになるような気がします……)。
結局、全部2時間サスペンスになる、という感想しかないのか、俺。
いや、超褒めてるんですよ。
『火サス』現役でない人は、これを読めば雰囲気がわかる、かもしれません。
『土ワイ』はまだやってるからなぁ……あれ、名前変わりましたっけ?
トリックとか、論理とか、そういうことではなくて、人間関係の背後に潜む動機が重要だ、という点で、私の思い描くガチの本格ミステリとはいいがたいものがありますが、<異様な動機>というものはまた本格の一ジャンルだったりするので、本格なのかなぁ……。
刑事二人のキャラクターは、2時間サスペンスにして作り込めば、シリーズ化できそうですけれどもね(やっぱりそれか)。