べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』井上真偽

 

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

 

BABYMETALにずっぽりはまっていて、本なんか読んでませんので……昨年読んでいた本をまだまだ紹介。

『その可能性はすでに考えた』が、抜群に面白かったので、次はないだろうなぁ……と思っていたらあった、井上真偽氏。

 

 

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

 

名探偵は、上苙丞(うえおろじょう)という、絶対読めない苗字の、青い髪の青年。

なんですが、とりあえず出てきません。

何しろ、事件が起こらないと、名探偵なもので。

で、この上苙という名探偵、亡き母のため、バチカンに対して「奇跡の存在」を証明するべく名探偵をしている、という人物でして。

シャーロック・ホームズの名言、「可能性を消去して最後に残ったものは、どんなにありえないものであっても真実である」(意訳)の言葉通り、奇妙な現象を論理的に説明「できない」ことを証明し、「最後に残った真実」つまり「奇跡」バチカンに叩きつける、ということです。

今のところ、成功していないようですが。

 

その名探偵が、ン億という借金をしている、元中国マフィアのフーリンという人物がいるのですが、今回は彼女がある目的で(基本的にそんな素性なので、どう考えても脱法行為に手を染めるわけです)訪れた地方で、ある事件に巻き込まれます。

「カズミ様」という、政略結婚から逃れるために、自分の家と相手の家の男衆を毒殺せしめた聖女の伝説が残る地で、意に沿わぬ結婚を強要された女性。

その結婚式の日に、伝説をなぞるように、人が毒殺されます。

同じ盃で回し飲みしたはずの八人のうち、三人だけ(あと、お酒好きのため悪運を拾った犬もいましたが)。

不可解な状況に、フーリンと、上苙の元弟子である八ツ星少年が調査を開始するのですが、ここから自体は思わぬ方向へ(本当に、思わぬ方向ですのでご覚悟を)展開していくのでした。

いやもう、途中で犯人わかっちゃうし、その上で繰り広げられる証明・反証合戦の茶番具合が最高ですね(褒めてます)。

いや、ほら、普通こういうのって、××××××で、××の×××にしないとサスペンスが盛り上がらないじゃないですか、でも今回のは、その反対のサスペンスといいますか、ああこういうやり方もあるんだな、と。

これはもう、こういうキャラを設定した時点で勝ち、という感じです。

まあ……そうするだけの必然性に乏しい部分があるとかないとか。

あ、ちゃんと名探偵も出てきますから、ご安心ください。

世評は、前作『その可能性はすでに考えた』に及ばないようですが、個人的にはこっちのほうがぐちゃぐちゃしていて好きです(解決は、オッカムの剃刀的なので覚えているのですが、途中の論争がね……何しろ、ありえるかどうかで仮説が立てられ、それを論破するという、恐ろしく意味のないことなもので……それが燃えるんです)。

どういう神経をしていると、こういうものを書こうと思うのか……頭いいんだろうな。

 

 

「もしこの少女の嫋やかさが全部演技なら、なんと面白い筋書きになることよーーなどと邪想に耽るふーりんをよそに、八ツ星はくるりと身を返した。」(p108)

 

フーリンさん邪悪。

 

……あ、あんまり引用すると、作品の都合上、いろいろネタバレしてしまいますね……残念。