BABYMETALの記事ばかりですが(そういえば、ニュースに突っ込む記事はずいぶん書いてないな……)、一応他の記事もありますよ、と。
辻原登先生は、学生時代に講義を受けたことがあるので、本当の意味で「先生」とお呼びできる唯一の作家さんです(まあ、大きな教室での講義ですので、あちらに認識なんておありではないでしょうが)。
強姦被害にあった女性(映画のフィルムエディター)は、犯人を告訴したのですが、数年の刑務所生活から解放された犯人からの逆恨みに怯えていました。
そこで、女性探偵を雇って、犯人を尾行してもらえるように、と依頼します。
この女性探偵は、別れた恋人からひどい暴力を受けており、元の住まいを逃げ出したのですが、場所を突き止められて、再び暴力を受ける、という羽目に陥っています。
そんな中で、フィルムエディターの女性の依頼を遂行すべく、犯人の尾行を行います。
一方、フィルムエディターの女性も、自分の仕事(失われていく映画フィルムを集め、再生する)に取り組んでいます。
それぞれの日常が淡々と描かれる中、それぞれに忍び寄る恐怖の影が、徐々に日常を侵食していく様子が、瑞々しくもどこか突き放したような文体で描かれます。
それぞれの女性につきまとうのは男だけでなく、芸術だったり、色恋だったり、様々で、これもまたリアリティに富んでいます。
普段、言ってみればサスペンスフルな状況に自ら身を置いているようなスーパーキャラクターの出てくる小説ばかり読んでいるので、日常を描きながら(それも、かなりニッチな世界)、そこに没頭できなくなる人間心理のサスペンスというのが、一歩間違えるとホラーでさえあります……ああ、辻原先生は芥川賞を受賞されているのでした……私にとって純文学は、ただのホラーよりもっと怖いものです。
とはいえ、文芸小説の薫りも高く、人生の様々な合縁奇縁を便利な伏線として使うこともなく、意思と偶然を味方につけて逃げ、そして立ち向かう女性たちの姿が痛ましくも勇ましいです。
確か、辻原先生は映画もお好きだったはずで(古い『ピクニック』という映画を、講義で上映された記憶が……なんとなくあります……)、そういった横溢な知識も遺憾無く詰め込まれ、法廷文書なども赤裸々に入れ込み、物語に十分な重みを与えています。
なんか、偉そうなことばかり書いているな……。
辻原作品では、『闇の奥』や『円朝芝居噺 夫婦幽霊』のようなものが好きです……わかりやすいな俺……あまり純文学寄りじゃない作品、ってことですね(所詮、通俗小説読みですから)。
年に1冊くらい、辻原作品を読むと、気持ちが引き締まります、はい。
ああ、『夫婦幽霊』、読み直したくなってきた……。
「青空を背景にしたものは何もかもが美しい。たとえそれが、押本のような犯罪者を収容している建物だとしても。」(p151)