えらくロマンチックなタイトルです(そうでもない?)。
私、鯨さんの本はほとんどこのシリーズしか読んでないんですよね……短編連作(文章が)ライト(でも内容は重厚)ミステリの名手として尊敬しています。
大学准教授の早乙女静香と、歴史ライターの宮田六郎が、基本的には酒を飲みながら歴史談義に花を咲かせる……というシリーズなんですが、今回はどうも毛色が違うようで。
何しろ長編ですから。
崇徳院のことを調べていた早乙女は、同じく崇徳院に興味を持っていた宮田とともに、京都に行くことになっていました(というのは、早乙女が同行する予定だったアメリカの大学教授が都合が悪くなって、宮田が推薦されたからだった)。
旧知の仲ではありますが、どちらかといえば仮説を巡って対立しがちの二人なので、京都行きが楽しいものになるかどうかは微妙なところ。
それ以前に、早乙女は別の研究者から「崇徳院に関する研究から手を引け」と半ば脅されていたし、宮田の知り合いが新興宗教がらみで暴漢に襲われるという事件に遭遇したりしていたので(その知り合いが崇徳院や西行法師に関する情報を集めていたり、その新興宗教が西行法師を崇めていたり)、不穏な空気は満ち満ちていました。
で、結局、京都に着く前、名古屋あたりで、二人は喧嘩別れしてしまうのですが。
一人京都に向かった早乙女は、馴染みの歴史学者と一緒に、西行法師の墓に向かいます(テレビにも出演する早乙女は、宮田が崇徳院を追いかけていることを知り、同時代の歌人である西行法師に興味を向けたようです)。
一方、遅れて京都に入った宮田は、たまたま出会った女性とひと騒動を起こします。
結果、早乙女一行と宮田一行は、ホテルのバーで遭遇することになり、ここでまた微妙な関係性が浮き彫りになり……って崇徳院の話がちっとも出てこない。
え〜、プロットに多少のツッコミを入れたくなる部分はありますが、崇徳院の謎に迫る、という部分では面白かったです。
歴史ミステリというのは、別に本格じゃなくてもいいわけで(現に、高田崇史氏『神の時空』なんて、もう……)、その辺りを期待している人もそういないでしょうから、なんといいますか、あれですねあれ、そろそろ絶滅させられそうな二時間サスペンスのようなものだと思って読まれればいいのかな、と。
それにしては、歴史ミステリの部分が、かなり重いかつ飛び道具ですけれども(でもなあ、『宗像教授ー』も二時間サスペンスになっていたしなぁ……あ、宗像教授役は高橋英樹さんでした、なかなかぴったり)。
崇徳院という人は、ご存知の方も多いと思いますが、「日本の大魔縁たらん」と宣言して、自分の指を噛み切って、その血で呪詛の誓文を書き連ねた、という大怨霊です。
超有名人、なはずなので、これを題材にするのはなかなか勇気がいるなぁ、と思いますし、超有名人だけに奇説を生み出すのもなかなか難しかろうと思います。
そこに突っ込む鯨氏の蛮勇(と裏付けされた知識)には脱帽です。
ところで私は、何しろ日本史の中世〜近代に疎いので、崇徳院だの保元の乱だの言われてもポカーン、なのでした……勉強し直さないといけませんですね、はい(BABYMETALばっか観てちゃダメ)。