べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『亡霊館の殺人』二階堂黎人

 

亡霊館の殺人

亡霊館の殺人

 

 

うーん、読んだのは去年のはずですが、読んだ記憶がない、という……。

アリアリ、レイちゃん、ノリリン、ユッキー、といえば、新本格アイドル四天王なのですが……あ、有栖川有栖さん、二階堂黎人さん、法月綸太郎さん、綾辻行人さんのことです、今つけました……みなさん近年も活躍めざましくていらっしゃって、嬉しい限りです。

麻耶雄嵩さんの『貴族探偵』がドラマ化されるくらいですから、法月さんの<犯罪ホロスコープ>シリーズくらい実写化しても……あ、そうだ、『一の悲劇』か『頼子のために』がドラマになってましたっけ(見逃した最悪)……いやいや、二階堂さんのことでした。

<蘭子>シリーズの大時代的プラス大仕掛けが好みなのですが、最近はトリックが読めるようになってきたんですよね……いや古典的って素晴らしい……なので、ドラマ化するならもちろん、ハードボイルド幼稚園児のあれですよね……いやいや、そうではなく。

本作はカーに捧げた短編集、といった趣になっておりまして。

「霧の悪魔」は、ヘンリー・メルヴェル卿が登場し、本家に負けず劣らず(というか本家よりもすっきりした感じで)大活躍するパスティーシュ

イギリスのある学校での出来事で、悪魔の力を借りた(と嘯く)少年が、理不尽な先輩たちを殺してほしい、と願ったら、本当に事件が起こってしまった、という話。

時代設定、舞台設定を整えてあるのでいいのですが、最近じゃ本格の世界にも悪魔だとか登場しちゃいますのでね、こういったゴシック調のホラーというのは難しくなっているんじゃないか、と思います。

もちろん、ガチの本格ですし、プロットの仕込みはお見事。

「亡霊館の殺人」も、H・M卿が登場します。

かつて、魔女発見人によって使われたという呪われた短剣(魔女発見人自身が、その短剣によって死亡していた)の伝わる館で、殺人が起きました。

雪の上、足跡のない殺人……十年前のこの事件は謎が解かれないまま、同じ館で行われる降霊術の会合……そして今度は密室で殺人が行われるのでした。

これもまた、古き良き、と称される探偵小説黄金時代の薫りのする一品です。

魔女、呪われた短剣、降霊術、と揃った場所に堂々と登場できるのは、二階堂蘭子を除けばもう過去の伝説たちしかいないでしょう。

オーソドックスを踏襲した、非常に真面目な本格です。

カーの作風、それもオカルティックなものを短編でやるのには、どうしても文字数制限があるだろうな、と私などは思ってしまい、カー偏愛家の二階堂黎人さんの作品といえども例外ではない、と思います。

演出のための行間が足りないんですよね……ただ、現代、このネタで長編を持たせるのはさぞかし大変でしょうから、こういう結果も致し方ないのか、と。

もちろんガチ本格で、こちらも伏線が効いています。

「カーは不可能犯罪ものの巨匠だ!」「『パンチとジュディ』について」は、カーに関するエッセイ。

これ以前にも、二階堂黎人さんはカー読本的なものでカー愛をカーたっておられるのですが、今回も別方面から掘り下げられています。

まだまだカーを読みきっていない私なぞはとてもついていけないのですが、『パンチとジュディ』は読みたくなりました。

ラストは、<二階堂蘭子>シリーズの傑作『吸血の家』の短編版。

長編版のことをあまり覚えていないのでなんともあれなのですが(<蘭子シリーズ>は、『聖アウスラ修道院の惨劇』が好きです)、短編版を読んでみて、「そうそう、これだこれだ」と膝を打ちました。

現代本格的に考えると、かなりの離れ業なのですが(「いや、さすがにすぐバレるんちゃうの?」的に)、発見者、発見場所などの配置の妙(プロットの技術)が説得力を与えています。

カーが好き、といいながらクィーンも大好きな二階堂さん、そういう手を使ってくるか、と当時読んだみなさんは思ったのではないでしょうか(ということは、クィーン好きなら何となくわかるわけですね)。

うーん、長編版を読み直したくなってきた……新装版とか出ていないかな……。

二階堂さんは、『◯◯の不思議』といシリーズや、名探偵水乃サトルの『◯◯マジック』シリーズなんかも面白いのですが、そういえばあまり読んでないな……トリックとかひねりの効いた設定とか大好きなんですが、多分、文体でノレないのかな……でもハードボイルド幼稚園児ものは大好きだし、ノンシリーズのSF絡みも好きだしなぁ……とりあえず『人狼城の恐怖』は読みましょう。

勝負はそこからです(?)。

 

「そうに決まっている。この間抜けめ!」癇癪を起こして、H・Mが怒鳴った。「ペンキの缶と刷毛を外に出して、ドアに鍵をかけ、紙テープを貼り、それから、犯人に命を奪ってくださいと奴が頼んだとでもいうのか!」(p149)

 

短編な分だけ、どうしてもセリフが説明くさくなってしまう箇所があるんですけれど、そういったものをH・M卿のキャラクターで押し切っている感じが、本家カーがすごいのか、日本のカーである二階堂黎人さんがすごいのか……むむむ。