おっと、五年も前でしたか……『武家屋敷の殺人』で興味を持っての小島正樹氏体験第2弾。
いっとき、とある理由で「孤島もの」のミステリをちょっと漁ったことがありまして。
今のところ、『カレイドスコープ島』がよかったな〜という感じです。
設定としては、「愛知県の知多半島沖、篠島の近くにある「贄島」という小さな島で起こった怪異と殺人事件」を、海老原浩一という名探偵が解く、というものです。
この「愛知県」というのがまず引っかかりまして……地元か、と。
しかも、篠島の近く……伊勢湾には篠島と日間賀島、というわりと大きな有人島がありまして、そのうちの日間賀島は、森博嗣『すべてがFになる』の舞台(のモデル)として知られています(……あれ、そうでもない?)。
そして篠島もミステリの餌食に……と思ったら、その近くにある、とされている架空の島が舞台だったので、うむ、惜しい……(何が?)。
といっても、トラベルミステリーな風情はあまりありませんので、地域性にそれほどの意味はない、と思いますが、私の読み込みが甘い可能性もありますので。
戦国時代の終わりに、贄島に四国の侍が流れ着きます。
島の人は拒否はしませんでしたが、そばにある小さな島に小屋を建てて、そこに侍たちを匿うことにしました。
時が流れ、侍の一人が贄島の網元の娘と恋仲になって、子を成してしまいます。
起こった網元は、侍たちを殺してしまいます。
そのときに、奇妙なことが起こっていたようです。
惨殺される前、酒宴に誘われた侍たちは「風もないのに木が揺れている」と口にし、港には何百匹の魚が死に浮かび、翌日に川が氾濫すると海が見たこともない赤い色に染まり、侍のあとを追って命を絶った網元の娘を土葬にすると、棺桶に入っていた鈴がなぜか鳴り響く……。
ちょっと時代は新しいですが、平家の落人伝説やら六部殺しの変形ですね。
で、このことで侍や網元の娘の祟りを恐れたらしい村人たちは、とある儀式を代々行なっていくこととなります。
その忌まわしい儀式を巡って……うむ、書けば書くほど、大横溝のような昭和のミステリの印象を受けますが、そこに島田荘司御大の物理トリックが加わって、さらに聞こえない音のように仕込ませた伏線が最後に効いてくる、と。
『武家屋敷の殺人』でも紹介しましたが、自称「やりミス(やりすぎミステリ)」とおっしゃるだけあって、それほど長い長編ではない中に打ち込まれた謎と解決のガトリング、まだやるかまだやるか、と思わせる過剰な熱量にめまいがします。
というわけなので、これまたあまり書きすぎるとネタが割れますが……そうですね、『武家屋敷の殺人』のほうが新しいし、シリーズものではないので何とも言えませんが、『綺譚の島』のプロットより『武家屋敷の殺人』のプロットのほうが優れているとは思います。
ミステリとしての、ではなく、読み物としての、です。
重層的な、という意味では近いものがあるのですが、本作のプロットは本格ミステリの王道に乗りすぎている、といいますが、ちゃんとしているのに、謎が多すぎる、のです。
謎、トリック、パズル、叙述トリック、とにかく過剰なほど喜ぶ私のようなすれた本格読みは、お腹いっぱいで鼻血が出そうに嬉しいですが、何しろ人間ですので、読んでいる間に最初の方の謎を忘れちゃうんですよね……いや本当に申し訳ない(まあ、私が短編好きなせいかもしれませんが)。
現代とはいえ孤島もの、容疑者が減っていくばかりなのでサスペンスフルになりづらい。
ページをめくるドキドキ感、が謎の解体以外の部分にもないと、なかなか読み手はしんどいかな……まあ、そんな人は最初からこの本を手に取らないと思いますが……あれ、ということはこれは私の感想で……『武家屋敷の殺人」を先に読んでいたので、その比較をしてしまっているだけなのかもしれません。
あ、私は好きです「やりミス」。
ただ、惜しむらくは……そうですね、変なことを変なままで受け入れさせる、腕力のある文体ではない、というところかな……京極センセみたいな、ね。
……あ、今回も引用はなしで……下手に書いてネタバレして興を削いでもいけませんし……。