べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『そして名探偵は生まれた』歌野晶午

 

そして名探偵は生まれた (祥伝社文庫 う 2-3)

そして名探偵は生まれた (祥伝社文庫 う 2-3)

 

 

新本格の四大アイドル、「アリアリ」「ユッキー」「レイちゃん」「ノリリン」の後から登場した、と思いますけど違ったらすいません、な歌野晶午さん。

島田荘司の薫陶を受けて、と思いますけど違ったらすいません、『長い家の殺人』などの<家>シリーズ、放浪探偵シリーズ(シリーズか?)、<密室殺人ゲーム>シリーズで、一時期より精力的に執筆されています。

次世代新本格な人々の中でも、似たような方向性なのは、麻耶雄嵩さんと歌野晶午さんだと思います。

どっちも諧謔に満ちている、といいますか。

そんな中でも、麻耶雄嵩さんは「悪魔的なひねくれ者」で、歌野晶午さんは「純然たるアウトロー』、といった色合いの違いがあると思います。

で、名作『葉桜の季節に君を想うということ』をまるっきりスルーしていて、ここにきて短編中編集を手に取ったのはなんでやろうか……。

 

「そして名探偵は生まれた」は、名探偵が雪の山荘で謎を解決する……という話のようで、そうなのかどうなのか……語り手はワトソン役、ひどい立場に追いやられているワトソン役、美袋くんを思い出しますな(麻耶雄嵩銘探偵>シリーズ参照)……いや、大抵のワトソン役はひどい目にあっているんだけど、これは日本の本格の伝統なんですかね……まあいいや。

作中作で謎の映画が出てくるのですが、『◯◯◯◯の◯◯◯』っぽい構成でなんだか懐かしかったです……。

 

「生存者、一名」は、とある宗教団体の信者がある島に取り残されるお話。

構成上、「瓶詰の地獄」のオマージュっぽいのは明らかですが、そこに宗教団体にありがちなあんなネタやこんなネタで翻弄してくれて、さらに突きつけられる……冒頭から示されている一文をどのようにとらえるのか……まあ、大抵は見事に引っかかります(本当にひねくれてるなぁ……)。

イムリミットサスペンスとしても上質です。

 

「館という名の楽園で」は、二階堂黎人さん編の『密室殺人大百科」に収録されていたもので、そうかあれももう15年前か……非常に哀切に満ちた、それだけになんというのか、著者には珍しく愛らしい作品になっている、と思います。

 

「夏の雪、冬のサンバ」は、まるであれを想起させるようなタイトルですが(あれです、あれ……)、まあ全然違っていまして、アウトロー本格の本領発揮、不法滞在者やらが住むアパートで起こったひねくれた事件を、ひねくれた探偵が、ひねくれて解決する、というなんともひねくれたお話です。

ノワール、犯罪小説、何かしら法に触れている側に立って描かれるものと、本格ミステリは結構相性が悪いのですが、それに挑戦する人もまた少なくありません。

本格の本格たる部分が、その法に触れている連中にとって切実であればあるほど、解決しなければならない、という必然性が増すわけで、倒叙ものよりも一歩踏み込んでいるとさえ思います(矢吹駆はやりすぎ)。

ソリッドシチュエーションのサスペンスにも似ていて、今流行りの論理デスゲームっぽく仕立てることもできますし、とかく本格にとって弱点とされがちな動機、それも「解決する動機」というのがやけに生々しくなるのです。

この辺り、私は『放浪探偵七つの殺人』が好きだったのですが、あれに通じるアウトローっぽさがあります。

 

久々に「館という名の楽園で」を読んで、ちょっと泣きそうになりました……本格の基礎を学んだ(というか読んだ)人が、次に手に取るにはうってつけな逸品でございます。