べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『隻眼の少女』麻耶雄嵩

 

隻眼の少女 (文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)

 

 

新本格において、諧謔といったらこの人、と何度も書いている気がしますが、麻耶雄嵩さんです。

麻耶さんの本も結構読んでいると思うのですが、『翼ある闇』、『夏と冬の奏鳴曲」の衝撃……よりも最初に読んだのが『あいにくの雨で』だったもので、そっちの衝撃のほうが結構強いんですよね。

あと、案外「木製の王子』とか。

メルカトルがひどいのはまぁいいんですが(よくはない)、本格ミステリの枠をずらして、それでもなお本格を書く、というのが凄まじいです。

麻耶雄嵩恐るべし。

そんな麻耶さんも、『貴族探偵』がドラマ化されちゃったりして、ちょっと丸くなったのかなぁ……『貴族探偵』は全く丸くはないのですが……ということで、未読だった『隻眼の少女』を手にしてみました。

 

主人公(というか、語り手)の種田静馬は、人に明かせない過去を背負って、各地を放浪していました。

その旅で訪れた栖苅村で、探偵を名乗る少女と出会います。

時代錯誤の水干姿、扇、義眼の左目。

御陵みかげと名乗った少女は、やはり探偵だった母の後を継ぐために修行の旅をしているのだそうです(母の助手だった父も一緒です)。

静馬にはにわかに信じがたい話でしたが、龍を殺した半神半人・スガル様の伝承が残る村で、首切り殺人事件が起こり、しかも静馬は犯人と疑われてしまいます。

その疑いを見事に晴らしたみかげは、スガル様を受け継ぐ琴折家で起こる連続殺人に立ち向かうのですが、その結末は悲惨なものでした。

事件を解決し、名探偵となったみかげは、静馬の前から姿を消します。

それから18年後……再び栖苅村を訪れた静馬は、あの頃のみかげそっくりな少女と出会うのでした……再び栖苅村を襲う惨劇に立ち向かう、探偵・御陵みかげに。

 

本作は二部構成になっており、一部が1985年、二部が2003年。

それぞれ、舞台や登場人物は重なっており、名探偵も御陵みかげ(ただし、別人)、ワトソン役は種田静馬、つまり一部をなぞるように、二部で事件が起こるわけです。

ちょっと意味合いは違いますが、クイーンのライツヴィルものっぽいなぁと思ったりするかもしれないです。

初期本格、というか、日本の因習や伝承を背景にした本格、というのも諧謔のネタにするのが麻耶雄嵩、だと思っていたので、ここまでがっつりそういった題材に取り組むのか、と驚きました。

そう、ちゃんとした本格(褒め言葉)なのです、これ。

ちゃんとしてはいますが、ちょっと手に負えない感じの本格ですけれども。

そして……ああ、そうですね、先ほどクイーンのライツヴィルものっぽいと書きましたが、総じてクイーンっぽい、と感じるものがあります。

パズラーであること、同じ舞台で事件が起こること、そしてそこに登場する二人の探偵・御陵みかげ……クイーンから法月綸太郎へ受け継がれたものとは別のものが、ここに受け継がれています……そしてまた、『悲劇』も受け継がれておりまして……と振り返ってみると、ものすごく濃い一冊ですね、これ。

本格のエッセンス、黄金期本格を純粋培養してネガポジ反転したような作品です。

そしてそれがまた、淡々と描写されているのが麻耶雄嵩の真骨頂……なのかな。

できれば、本格にすれていない人に読んでほしい一冊です(……いや、麻耶雄嵩作品のほとんどは、すれた本格読みこそが読むと楽しいものだと思うのですが、この作品は、本格初心者にもオススメです)。

 

……引用するといろいろバレそうなのでやめときます。

やっぱり麻耶雄嵩、すごいです、そしてひどいです、でも好きです。