あれ、Kindle版だ……。
紹介文に「平成のエラリー・クイーン」なんて書いてあったらそりゃ手に取るでしょう、な私(ちなみに、クイーンはまだ全部読んでません……あとなんだっけな……『日本樫鳥』とか……あれそれはパスティーシュのほうだっけ……)。
風ヶ丘高校、という高校の(なんだ、この表現は)旧体育館で事件は起こります。
旧、とはいってもまだ使われているので(卓球部や演劇部)、新体育館を建てた理由がわかりません(普通壊す気がしますが……まあ、手狭になったんでしょうか)。
それは本筋とは一切関係なく、梅雨時、そぼ降る雨も弱まりそうなある放課後、部活が始まろうという時間、生徒たちがちょっとした異変に気がつきます。
普段は降ろされていない緞帳が降りている……誰が降ろしたのだろう……その緞帳を上げてみたところ、そこには一つの死体が残されていました。
死亡推定時刻からそれほど時間は経っておらず、しかも現場は密室状態、そんな中で、一番乗りした女子卓球部の次期部長が疑われることになり、卓球部員の柚乃はパニックになります。
そんな彼女に、助け舟を出したのは生徒会副会長。
どうやらこの学校には、学校に住み着いている、成績トップの天才がいるらしい。
先輩を救うためには、彼に頼るしかない……。
というわけで、登場するのが、いろいろと何か秘密があるらしい部室の住人、極度のオタクで、「フェアなことが嫌い」らしい裏染天馬。
彼が、名探偵の役割を果たすことになります。
事件は、密室状態が絡んでのパズラーですので、現代本格としてはもちろん及第点。
そして、読者への挑戦を挟む、という蛮勇に挑んでいるという点では、拍手喝采もの。
探偵に必要なディレッタント的要素、衒学趣味(幅広くはありますが、いわゆるサブカル的なものが多いので、そこで好みはわかれるかと思います……事実、オタクだと自覚のある私にもついていけない部分がありました)もまた、国民総評論家時代とさえ言われる現代、そういう人が表に出てきやすい現代に置き換えられると、「ああ、いるかも……」と思わせるリアリティがあったりします。
パズラーとしての出来について、私は云々するほど本格に耽溺していないのですが、読み進めている中で、確かにクイーンのあれとかを想起しやすい(おそらく、あえてそのように書かれているのでは、と思いますが)、見事な論理構築でした。
プロットは、改稿されているらしいので、最初からこうだったかどうかはわかりませんが、きちんと最後まで興味を引くような書かれ方で、現代的に複雑化したストーリー展開の常道といえるでしょう。
黄金期パズラーを現代でやるとしたら、一つの正解がここにあるような気がします。
そのくらいに、ええと……これ、若い人が書いたの?と疑いたくなるほど、ちゃんとしてます(?)。
パズラーの部分(と見せ方)はクイーンに、密室の部分はカーになぞらえている、という見方もできるかもしれません(そういう意味でも秀逸といいますか、美味しいところどりと言いますか、もちろんどっちの巨匠もそうであることは望んでいないと思いますが、よい感じで融合されているのかな、と)。
ちなみに、私は真相に至れませんでした……あれに気づいたら、かなりの快感だと思います(変な方向に推理しちゃったからなぁ……窓か……)。
で、ですね……うーん、なんでしょう……いや、その、探偵の設定が、お若い方の考えたものにしては「やけに昭和のライトノベル好きが思いつきそうな感じだよなぁ……」って思ってしまいまして……ノリとか……いいんですいいんです、私がそういうおっさんだ、というだけで(読んでいて、つくづく自分がもうアニメオタクじゃないんだな、と思い知らされましたよ……)。
シリーズは第3作くらいまで出ているようなので、また読んでみようっと……そういえば最近、ちゃんとした館ものとか書いてる人とかいるのに、若い人のを読んでないなぁ……ちょっと、自分の中でも、本格の趣味嗜好がずれてきているような気がします。