べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『緑のカプセルの謎』ジョン・ディクスン・カー

 

緑のカプセルの謎【新訳版】 (創元推理文庫)

緑のカプセルの謎【新訳版】 (創元推理文庫)

 

 

新訳が出たら、できるだけ読んでますカー。

恐ろしいのは、読んだときは非常に面白かったのに、時間を置いたら話をさっぱり覚えていないこと(私の読む方の問題)。

ちらっと読み返しても、ほとんど思い出せない……。

 

小さな町の雑貨屋(煙草屋兼菓子店)で発売された(チョコレート)ボンボンに毒が混入されており、それを食べた子供が死亡するという事件が起こりました。

そのボンボンは、地元の実業家の姪マージョリーが、近所の子供に駄賃を与えて、ミセス・テリーの店に買いに行かせたもの、ではありませんでした。

マージョリーは、普段から可愛がっているフランキーにボンボンを買ってくるよう頼んだのですが、フランキーが持ってきたものは、中のクリームの色が違っていました。

そこで、もう一度フランキーを店にやり、交換してもらったのです。

その、交換したほう(店に残ったほう)を購入して食べたものの中で、不幸にもフランキーが命を落としました。

犯人が逮捕されたわけではありませんでしたが、状況からマージョリーが町中から疑われることとなりました(すり替えが行われたのではないか)。

そこで、実業家マーカス・チェズニーは、真犯人を指摘しうる仮説を思いつき、それを再現する寸劇を、親戚や知り合いを集めて行うことになりました。

しかも、その場面を映画撮影機で撮影する、というなかなかな趣向。

寸劇には、レインコートにマフラー、サングラスに帽子、という風体の、謎の男が登場し、自ら被害者役となったマーカスに緑色のカプセルを飲ませます。

もちろん、それは演出だったのですが、しかし、本来謎の男に扮するはずだった協力者は何者かに襲われ気を失っており、そしてマーカスに投与されたのが毒、青酸化合物で、結果マーカスも死んでしまいました。

 

なんかもう、この状況だけで頭こんがらがってきます(捜査を行うのはスコットランドヤードCIDのエリオット警部なのですが、彼はフランキーが死亡した事件(マーカス死亡の事件の4ヶ月ほど前)の捜査にやってきて、たまたまマーカス事件に遭遇したのでした)。

フランキー事件を解決するためにやってきて、別の毒殺事件に遭遇し、それは衆人環視(関係者だけですが)のもと、さらに記録映像まで撮影された中で発生したばかりのホットなもので、しかもそれを解決できればどうやらフランキー事件の手がかりも手にすることができるらしい……カーすげぇ、思いついてもこんなことやろうとしないと思います。

ある事件を解決するために行うことが、別の事件を誘発する、というのはまぁよくあるパターンかもしれません。

それが記録されていたってなると……何かもう、現代的なテクノロジーでこれに対抗しようと思うと、かなりチープなSFチックになって駄作認定、で終わりそうです。

で、フェル博士登場、と相成るわけです。

毒殺者講義も入りつつ、そして(当然のことではありますが)動機という点を省いて、犯罪の仕組み(トリックとも)についてのみ着目するフェル博士の推理は、謎の寸劇を改めて解体していくのですが、このプロットが面白いなぁ、と。

奇妙な事件を奇妙な事件で包み込み、その奇妙さを冒頭にどんと据えて、そこから詳細に掘っていって解体していく、というのは、本格のお手本にもなり得そうです(ちょっとばかり、謎の男(透明人間のような風体)が、カーのオカルト趣味からずれてしまっているような感じはしますが……)。

思惑のベクトルが幾重にもなっているところも面白いです。

頭こんがらがりますけども、映像の使い方などのシンプルさは、読み込めていなかったなぁと……さすがカー。

やっぱ面白いなぁ……。

 

「辞書は”ほのめかし”をどう定義しているかエリオットは考えた。ほかにどう書いてあるとしても、静かな水面をかき乱すという意味はあるはずだ。」(p106)

 

「実に象徴的じゃないか。自分が見ているのは推理小説作家の悪夢だーー絶対にいじれない時計。」(p120)

 

「「……みっともないところを見せてすまんな。これまでも地獄の化身に出くわしたことはあるが、これほど論理的で骨身を惜しまず行動する輩は初めてだ。……」」(p190)

 

「「……まさか、人殺しが警察によって顕微鏡でしっかり調べられるであろう、犯行中の自分の映像をほしがったなどとは言わんだろうね。……」」(p222)

 

ちょっと、カーの新訳おっかけは、現在時間で止まっていますが……また手を出したいと思いますわ。