べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『スペイン岬の秘密』エラリー・クイーン

 

スペイン岬の秘密 (角川文庫)

スペイン岬の秘密 (角川文庫)

 

 

新年早々、死にそうに体調が悪い私です。

実際、死んだかもな、と思いました。

まあ、それはともかく、クイーンを掘り進めようミッションは、実はひっそりと続いておりまして、既読のはずの『スペイン岬』にたどり着いてみたら、全然内容を覚えていないと……何と勘違いしていたのか……『エジプト十字架』かな……何回読んでも真相を思い出せない『ローマ帽子』よりはましですが、あんまりインパクトが強くなかったのか……単なる記憶力の衰えですけども、多分。

謎の奇抜さでは群を抜いている感じがありますので、内容についてはそれほど触れる必要もないのかなと……あとで触れますけれど……この作品が面白いのは、冒頭、結構なバイオレンス/サスペンスなシーンから幕が開く、ということではないか、と思います。

というのも、多分、クイーンがあんま得意ではないんだろうなぁ、という分野だからで(歴史的な荒くれ者を書いたりするのは得意そうですけれど)。

なんか、こうですね、小説の技術はともかく、無理してるなぁ……みたいに思ったりできる、ギャップ萌えポイントです。

あとは、ディレッタントの師匠ぽいマクリン老判事とのやりとりとか、スペイン岬周辺では水着のままで公道を歩いていいらしい、というところに反応する若きエラリーとか、まあ若い男女が出て来てロマンスがというのは定番ではありますが……あとはパーフェクトな執事のウォルタ……じゃないティラーですね。

事件は、重要と思われる事件は一つしか起こらず、それが「殺された男は裸で、中折れ帽を被って、ステッキを持ち、マントを羽織っていた」問題で、この奇妙な状況をいかに(小説世界の)論理に基づいて解きほぐすか、非常に鮮やかな世界の反転が見られます(といって、この犯人の隠蔽の仕方、技術的な話ですが、現代ではありきたりなものになっていますし、当時としてもさして新しくはなかったかもしれません……)。

登場人物表を忘れるな、ってやつですね(?)。

 

「「”はじめからほんとうのことを話すほうが結局は得になる”」エラリーは考えながら警視のことばを繰り返した。「奇をてらわない名言ですね、判事」小さく笑う。「警視、素朴な表現ながら至言でしたよ。誉れ高きかのバートレット引用句辞典に載せるほどの価値がある。ゴドフリー夫人は参ってきています。押さえどころを少し突けば……」」(p135)

 

「静かに死ぬ権利は、凡人のためのものだ。暴力による死は、とるに足りない者を受難の重要人物におのずと変え、平凡なものから重要な表象を生み出す。」(p348)

 

「「そこが才走った人間の困ったところです」エラリーはつぶやいた。「そういう人間の考えでは、犯罪を必要とするとき、解決できないよう巧妙に事を運ぼうとする。しかし、利巧であればあるほど、また計画が複雑であればあるほど、手ちがいが起こる危険が多くなる。完全犯罪なんて!」疲れた様子で首を振る。「完全犯罪というのは、目撃者のない暗い路地で、見知らぬ相手を行きあたりばったりに殺すことです。手のこんだものではありません。毎年百件の完全犯罪が起こっているーーいわゆる精神に問題のある暴漢が起こしたものです」」(p439)

 

名探偵というのは、完全犯罪の前には無力なのです。