よみがえるヴァンパイア――人はなぜ吸血鬼に惹かれつづけるのか――
- 作者: エリック・バトラー,松田和也
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2016/05/26
- メディア: 単行本
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日本古代史の本を読んでいると、揺り戻しでヨーロッパ系の本を読みたくなります。
というわけで(三年も前の話ですが)、何か面白そうなタイトルだったので購入(いや、吸血鬼ったらそらよみがえるやろ、的なノリで)。
えらい硬派な本でした。
ヴァンパイアという言葉が文献上初めて見られるのは17世紀、オーストリアの王に仕えていた医者の報告によるもの、だそうです。
セルビアで起こった謎の不審死に対し、住民たちが死人が蘇って首を絞めて殺したのだ、それを住民はヴァンパイアと呼んでいる、と。
モデルとなる神話・伝承上の存在はあったにしろ、ヴァンパイアという言葉で表現されるものはこの頃に発見(あるいは再発見)さて、そして現代に至ります。
どういうわけか、はるか昔から存在しているかのような、強力無比な超常的存在として。
アメリカに飛び火すれば、ハイチが近かったせいもあるでしょうが、ヴァンパイアはゾンビに取って代わられ、こちらはアメリカらしく現代的神話にすり替えられて、それでもなお絶大な人気を誇っています。
東洋では、「血を吸う」ということ自体に、それほどの神秘性が付与されなかったのか、吸血の超常的存在ってそんなにいないような気がします(動く死体という意味でのキョンシーは、いたってゾンビ的なものではあるのですが)。
ベースとなるのが中華文化圏ですから、畢竟不死性は「血を吸う」ではなく、仙術、特に丹に求められることが多く、仙人はそこら中にいました。
あとは、吸血というより食人、のインパクトかなぁ……。
実際には、虚構の中にしか求めることのできないヴァンパイアの真の姿を、その虚構を丹念に見つめることで解きほぐしていこうという本作は、吸血鬼ロマンに対し大いに水を差すものかもしれません。
でもまあ、日本の妖怪も同じようなものなので、あまり気にすることもないのかな、と。
また、太古からヴァンパイアは存在していた、非常にうまく隠れていたのだ、というネタに持っていくのもまたありだと思います(宇宙人ははるか古代に地球にやってきていたのだ、というネタと変わらないので)。
ただそうすると、なんでまたあの時代に、急にヴァンパイアが発見されちゃったのか、という話になります……その結果、本書のような論考が必要になってくるでしょう(そのあたりも結局、UFOと同じようなもので、人間が発見したいときに発見したいものを発見する、のでしょうかね……)。
怪物くんのおともって、狼男以外は新しいんだなぁ……。
「ヴァンパイアは動的であり、常に流動している。視覚的認識パターンの撹乱によって不死者たちが生み出す混乱は、彼らに攻撃の機会を与える。」(p75)
「ドラキュラは既にストーカーの小説においてすら過去の異物であった。彼の流儀は現代の対極に位置しており、そして彼が生活に参加するのはそれを絶つ時だけである。」(p100)
「メタル・ファンは一般的に、どのグループをメタルに含めるかを決定する段になるとかなり党派的であるが、全員一致で認めるのはこの教会が一九六九年、英国はバーミンガムの労働者階級のバンドであるブラック・サバスによって設立されたという事実である。」(p172)
メタル・チャーチ!ってことではないですが……今や、どこか後ろ暗いサブカルチャーは陽の光にさらされても生きていけてしまうようになりました……ヴァンパイアは日光を克服したのです。
克服して、得られたものは、「無関心」だったのだとすると、どうなんでしょうねぇ……それでよかったのかどうなのか。