おっと、なんと、5年も前の本でしたか。
野﨑まど氏は、友人から『【映】アムリタ』を勧められて読みました。
面白かったです。
それからしばらく忘れていましたが、最近ライトノベル読んでないなぁと思って、読みました。
この20年くらいで読んだライトノベルって……『ブギーポップは笑わない』『マリア様が見てる』『愚者のエンドロール』くらいでしょうか……数えられるくらいしか読んでいません。
あ、この間、『新妹魔王の契約者』とかいうのを読みました。
大学院生の舞面真面は、叔父である影面に呼び出されて、東京から離れた鄙びた街(村?)を訪れた。
叔父は、祖父の遺言の謎を解いてほしい、と真面に依頼した。
その場には、叔父が雇った興信所の探偵と、叔父の娘である水面がいた。
民俗学を専攻する水面と、工学部の真面は、それぞれの知識を活かし、曽祖父の遺言を解こうとする。
「箱を解き 石を解き 面を解け よきものが待っている」
この、暗号のような言葉が曽祖父・舞面彼面の遺言だった。
舞面家の敷地には、「体の石」と呼ばれる立方体の巨大な岩があった。
舞面家の蔵には、小さな立方体の「心の箱」と言われるものがあった。
では、面とは?
遺言について考える真面の前に、不思議な動物のような面を被った少女が現れる。
傲岸不遜な態度の、この少女は何者なのか?
そして真面は、一つの”解答”にたどり着く。
暗号解読ミステリっぽいですが、実際暗号解読ミステリです。
ただ、その解法が極めて異質で、まあ大抵の人なら怒るでしょうが、問題は「それができるのか」というだけのことなので、できる人間にはできるでしょう。
そういうことを書ける野﨑まどという人は、確かにただの小説書きではないです。
「できる人間にはできる」ということを、きっちり説得力をもたせながら書ききる筆致。
その他の文章は、恥ずかしいほど瑞々しく、とはいえどこか突き放したような印象があります。
がちゃがちゃ騒いでいる印象はないのに、必要なボケツッコミは備えている、という不思議な感じ。
よくできたコントのようです(褒めてます)。
何がライトなのか、というのはよく考えるのですが、この人の場合はその流麗さなのだと思います。
流れるように読める、読まされる。
不思議なほどよどみがありません。
それが、怖い。
『【映】アムリタ』がそうでしたが、こうもさらっと小説ホラー(ホラー小説ではない)をやられてしまうと、読んでいる方としてはぶるぶる震えるしかありません。
とにかく、超流動みたいな滑らかさです。
いっとき、エンタメ系の小説をどこで区切るのか、を考えたことがありまして、清涼院流水、京極夏彦、森博嗣……と考えていくと、やっぱり西尾維新にぶち当たるのだな、と思いました。
ご本人が否定するのか肯定するのかわかりませんが(そしてそんなことどうだっていいのですが)、野﨑まど氏は西尾維新フォロワーの一人だと思います。
それも、がちゃがちゃしていない方の(じゃあがちゃがちゃしている方は?)。
いや、もちろん全然違うんですけどね、厚さとか。
それでも、私には似た部分が見え隠れするのです。
ま、面白いからどうでもいいと思いますけれど。
ネタとしては、実に古式騒然、とさえ言えるかもしれません。
それが、古く見えないこと。
そして、読み終えてみて、「ああ、それでもいいな」と思えること。
それがきっと、野﨑まど氏の新しさなのだと思います。
この読みやすさは、超絶技巧の域です。
素晴らしい。
「一瞬で届く電子メールと、十数時間を必要とする宅配便。この速度の幅を許容して同じように処理できるのは、人間の脳の類い希な力だと真面は思う。」(p130)