【2015年・第13回『このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作】女王はかえらない (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 降田天
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2016/01/08
- メディア: 文庫
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一応、話題の本も読んでおこうシリーズ。
『このミステリーがすごい!大賞』の翻訳ものは結構信頼を置いているのですが、国内はどうなのかなぁ、と思って手に取った感じ。
帯には「二度読み必至!」と書かれており、それだけで「ああ、あれか……」と気づいてしまうのが本格読みとしては残念な感じです。
それでも毎回引っかかるんですけれどね。
針山小学校四年一組内の、今でいうスクールカーストを巡っての二人の「女王」の話が展開されます。
マキという女王が君臨していた教室に、エリカという転校生がやってきて、子どもらしい純粋かつ剥き出しの勢力争いが始まるのでした。
このあたりの描写は、私が男であるせいか、なかなかすっと入ってこない部分がありました(先日も、職場でそんな話になったのですが、かくも女子の世は複雑怪奇なのか……と冷や汗をかいたものです)。
同じものを身につける、意見に賛同する、ちょっとした冒険に踏み込ませる、家庭の事情を掘り出して貶める……そんなフィルターなしの悪意がぶつかり合っています。
まあ、子どもの闇とやらは、島田荘司も書いたりしていますし、『アンファン・テリブル』とか昔からテーマになったものなのでしょう。
やがて、女王二人の争いは、ある少年への恋慕の情と結びつき、そのうちの一人が死亡する、という事態にまで発展します。
一方で、今度は教師の視点から、少女の行方不明事件、それに伴うクラス内の空気の変化などが語られます。
三年生という年齢の児童を相手に手こずりながら、それでも真摯に子どもと向き合おうとする女性教師。
教師の限界に気付き、しかし子どもを枠にはめるのではなく一人の子どもとして見ようと努力し、犯した罪が人生の中で取り返せることを伝えようとする。
そんな教師が直面するのは、逃れようのない罪の大きさ。
うーん……あらすじを書いてしまうと、いろいろと真相に触れてしまうのでこのあたりにしておきます。
何と言いましょうか、(いつも通り)見事に騙されてしまったので、その点について文句はありません。
本格読みとして、おそらく誰もが突っ込みたくなる「ある」部分についても、まあしょうがないかと(あまり厳密さを求めたところで……ですし)。
とはいえ、「驚愕の仕掛けが!」「トリッキーなプロットに、驚嘆する読者も少なくないだろう」なんて帯の裏に書かれているほどかというと、そうでもないかな……ありがちとはいいませんが、このプロットは例えば……ああ、書けないですが、まあちょっとした変形も含めていろいろとあります。
「子どもたちの心理と表情を見事にとらえた、その筆力……」という吉野仁氏の評は確かにそうかもしれません。
連城三紀彦氏の作品を「超絶技巧」と評することがありますが、あるフェイクをフェイクたらしめるためには、他のものをいかにリアルに表現できるか、ということなのかな、と。
読んでも損はしない、と思います。
「「お姉ちゃんが三人もいれば、自然に女子社会のルールに敏感になんの」
「だったらマキになんか関わらなきゃいいのに。って、何度も言ったよね」
「わかってるけど……やっぱりほっとけないよ。マキも根っから悪い子じゃないと思うんだ」
「それがよくわかんないよ。根っから悪い子ってどんな子? じゃあマキはどこから悪いの?」
「……また意地悪な言い方」
メグがしょんぼりしてしまったので、それ以上の追求はやめにした。」(p20)
うちは姉が一人でしたから、敏感にはなりませんでしたが、女子社会の理不尽さは感じたような気がします(まあ、それ以外にもいろいろ理不尽さを感じていたのは、誰でも同じだとは思います)。