べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『賎民の場所 江戸の城と川』塩見鮮一郎

 

賤民の場所 江戸の城と川 (河出文庫)

賤民の場所 江戸の城と川 (河出文庫)

 

 

興味のある分野ではありますが、なかなか難しい。

著者の作品は何冊か読んでいますが、いずれも知らないことが多くて勉強になります。

古代史には直接関係ない、ですが妄想を広げる上では、江戸の被差別民の辺りから遡っていくのが妥当かと(それ以前は、社会システムに組み込まれているのかいないのか、という立ち位置なのが、こういった人々ですので、記録に残りづらい)。

本書では、地図をちりばめながら、武蔵地方の成立(徳川家康入府以前の江戸の姿)が紹介されていて、それは古代(に近い時代)から始まっています。

私はまったく中世以降の歴史に疎いので、関東管領だとかなんとか、現在の関東地方を支配していた勢力がなんのことなのかよくわかりません。

江戸とか千葉とか、一族の名前だったりするんですよね元々(あ、土地の名前から名乗ったから、やっぱり地名が先なのかな)。

著者が中心として追いかけている「賎民」の話はそれほど多くはありませんので、期待するとちょっと損した気分になるかもしれませんが、内容はエッセイと言っていい感じの軽さ、しかし密度がわりと濃いので、さらっと追いかけていると残念ながらなかなか頭にはいりません。

うむ、ちゃんと読まないといかんですな……まあ、そもそも地名や人名が増えると私の脳みそはパニックなのですが(文字から空間を創造することが苦手……って、読書に一番向かないタイプの脳みそです)。

 

「いまでは「神仏にいのる」という。また「江戸幕府」と呼ぶのも普通だが、むかしはそうではない。「仏神にいのる」がおおくつかわれたし、「徳川幕府」と記したものだ。こういうさりげない語句にも、維新政府や文部官僚のこまやかなイデオロギー操作が見てとれる。仏教を攻撃して神道をさかんにするため、「神仏」という語順にした。徳川というにくき敵方の名はできるだけつかいたくないので、教科書では「江戸時代」とした。」(p3)

 

「徳川もまたイデオロギー操作をしていて、入府の天正十八年(一五九〇年)八月一日以前、ここは寒村にすぎなかったという記録をばらまいた。家康によって江戸の基礎がつくられたと強調され、幕府では八朔をいわったものだ。」(p3)

 

「もちろん、変化しつづけるのは海岸線だけではなく、湖もまた、雨季と乾季で、ひろがったりすぼまったりしているし、そこから流れ出す沢も、ときには、ワジと呼ばれる涸川になったりする……(略)……古い地図に見られる大まかにして大胆な線は、このような事情があってで、正確な地図のほうこそがかえって一時的で、役に立たなかっただろう。その地図を持ってつぎにやってきたときには、川の流れる場所がすっかり変わっていたことなどしょっちゅうあっただろうから。」(p24)

 

浅草寺は、関東地方でもっとも早くに生まれた寺のひとつであった。ただ、檜前一族の寺だったためか、つまり官立ではなかったから、歴史の書にその名が登場するのはずっとおそい。しかし、書きとめられようが無視されようが、浅草寺の一帯は、そこが上総へ渡る豊島駅のあったことからも、にぎわい栄えていたのである。江戸は浅草があってはじめて成立したといってもいいすぎではない。」(p47)

 

「代々の天皇が断肉令をだすのは仏教の影響もあった。当時、この外来の宗教イデオロギーがいかに新鮮で衝撃的であったかを、よく想像してみなければならない。そこには哲学があったし、政治がふくまれていたし、おまけに進んだ文物や医薬品をともなっていた。天皇をはじめとする統治者やインテリゲンチャがとびつくだけの魅力はあった。その宗教思想のうちの重要な柱をはす生類への慈しみ、とりわけ牛への労りは、それまでの社会が、なんの痛痒もなく、食べるために殺し、遊び半分に殺していたため、よけいに深い意味をもってしまった。自然破壊があったのちにエコロジストが出てくるように、いたずらな動物殺傷ののちに生物憐みの意識が根づいたのである。」(p57)

 

↑うーん、これはちょっと……生贄というのは、捧げるものが貴重であるほうがいいわけで、そういう意味では、もちろん犠牲獣への労わりがあったかと言われれば疑問ですが、痛痒もなくということはないのではないか、と思います(食べるために殺すのに、痛痒があったか、というとそれも疑問ですけれど……いちいちそんなことを思っていたら食べられないでしょうから)。

殺牛・殺馬の儀礼が、地方では細々と続けられてきた痕跡もあるようですし。

 

去年読んだので、正直あんまり覚えておらず……ぱらぱら読み直して、中世〜近世の日本史知識が薄いとなかなかしんどい読み物だな、と思いました。

いかんいかん……もうちょっと幅広く知りたいものです……。