べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『陰陽師とはなにか』沖浦和光

 

陰陽師とはなにか: 被差別の源像を探る (河出文庫)

陰陽師とはなにか: 被差別の源像を探る (河出文庫)

 

 

いわゆる「被差別民」への興味があるのはなんでなんだろうか……現代日本においても存在する明らかな差別の視点について、何かしら疑問を抱いているからなのか……そういう細かいことはおいておいて、実態としての「陰陽師」について知っておいた方がよかろう、と思って手に取ったらしいです(うろ覚え)。

 

とにかく、文庫とは思えない内容の充実っぷりが素晴らしいです。

近代化において、旧弊、迷信などをとりあえず破壊しようとした明治政府ですが、実際にはそんなことは、常に行われてきたことであり、一気に方向転換しようとした軋みが大き過ぎただけ、と言えるかと思います。

そして、旧弊とやらを一掃できた文化というのはほとんどないわけです(むしろ、じわじわと消していく、というほうが効果的だったりする)。

キリスト教は、その一神教的な体系を敷衍させようとしたのですが、結局それは無理なんですな……聖母信仰の時点でそもそも矛盾を孕んでおりますから。

 

まあ面白いので、実際に読んでいただきたいです……私は名古屋人なのですが、不思議と千種区には「清明山」という地名があり、「晴明神社」があり、安倍一族の陰陽師の伝説が残っております。

尾張名所図会』を見てみますと、現在の北区、「味鋺神社」のあたりには、陰陽師がいたという話が残っていたり、尾張万歳発祥とかなんとか……うろ覚えで申し訳ない……この辺りの繋がりも、本書を読んでみるとちょっと推測できたりして面白いかと思います。

 

本当に、網羅的(陰陽寮から「安倍晴明」、「役行者」、「秦河勝」、民間巫覡、明治の近代化から現代へのつながりまで)に書かれていて、この本が「まとめ」なもので、何をまとめたらいいものか……密度が濃いので是非とも手に取っていただきたい。

 

「しかし、彼ら陰陽師集団の昔日の面影を伝える在所は、北九州のかつての「役者村」の一部と愛知県の三河万歳系の小集落を除いて、ほとんど何も残っていなかった。」(p20)

 

「大阪の下町の長屋では、上流市民階級の近代主義的なモラルはほとんど作用せず、近世の時代からの庶民の義理人情がまだ主流だった。長屋のラジオから流れてくるのは、近世の「説教祭文」から転化した「浪花節」と、「万歳」から祝言的要素が抜き取られてコミカルな掛け合いとなった「漫才」だった。」(p24)

 

「その画期となったのは「触穢」の法制化だった『貞観式』の後を承けて延長五(九二七)年に撰進された『延喜式』にその大要は記されている。」(p53)

 

「これは『梁塵秘抄』に出てくる十二世紀頃の流行歌だ。後白河院によって編まれた今様歌集である。「今様」は、平安中期から流行したが、和讃や催馬楽の影響を受けて七五調四句で歌われた。これらの歌は、白拍子・遊女・傀儡女らによって広められた。彼女らは摂津の江口や神崎、美濃の青墓や播磨の室津など、往来の多い宿場や港町を拠点にしていた。特に港町では、今様を歌いながら津々浦々を流浪し、その芸と色を売って世渡りしていた遊女がいた。」(p69)

 

「このような政治的趨勢を見極めた物部韓国連は、先祖伝来の韓国を消して、「高原」という和名の家譜を造作したのである。「韓国」は「辛国」「唐国」にも作るが、本拠地は和泉国和泉郡唐国村であった。今も和泉市には唐国町が現存していて、私の奉職した大学から五分の距離にある。」(p103)

 

「室町期には、その祖型が語られていたとみられる説経節の名曲『愛護若』は、その舞台が近江国になっている。主人公の若が飢えている時に四条河原の細工に救われ、近江滋賀峠では田畑之助という下人に助けられる。粟田口から叡山に登るのだが、そこに立て札があって、一枚は「女人禁制」、また一枚は「三病者禁制」、今一枚は「細工禁制」とあった。「三病者」とは仏の救いの手も及ばぬ三つの業病で、中世ではおもに癩者を指した。「細工」は皮剥ぎ・皮革製造をやる河原者と同義で用いられた。」(p160)

 

「私も一九七〇年代から、「三河万歳」の名で知られる別所万歳・森下万歳・院内万歳の在所を訪ね歩いた。尾張万歳・知多万歳、そしてその影響下にあったとされる伊勢万歳も訪れた。伊勢万歳では、九十歳を過ぎた古老から聞き取りをさせていただいた。今では村の景観もかなり変わっているだろう。一番印象に残っているのは、近世の初春には江戸まで訪れた森下万歳(現愛知県西尾市)の侘しいたたずまいだった。」(p214)

 

「しかし、この「高崎播磨」に関する伝承には、日本の陰陽道史にまつわる大きな問題が伏在している。播磨国は、古代から朝廷に仕えていない民間陰陽師の拠点だった。」(p236)

 

宇宙皇子』世代にはおなじみ「韓国広足」とか、日本におけるアンチヒーローに仕立て上げられた「蘆屋道満」とか、サブカル世界でもビッグネームが続々登場しますので、そういった観点からも面白いのではないかと思います(をい)。