英国の女流ミステリー作家のうち、ブランドが一番好きだと思います(特に短編がね……『招かれざる客たちのビュッフェ』がサイコー……なんだけど、どこにしまったかがわからない……)。
クリスティは多作すぎて、全然読めないし。
元映画女優で、さる公国(サン・ホアン・エル・ピラータという架空の国)の王子との間に結婚の約束を結んでいたサリー・モーン。
ある夜彼女は、自身が出演した(最初で)最後の映画『スペイン階段』が上映しているというレンズ・ヒルに向かった。
その受付は、かつて映画を撮影していた頃に付き合いのあった、ヴァイ・フェザーという女性だった。
あの華やかな、そして苦い時代を思い出すサリー。
映画が終わって帰宅しようと車を走らせていると、尾行されているのではないかと考えた。
何しろ、公国の王子との結婚の証である指輪はサリーが持っており、公国の刺客がいつそれを狙いに来てもおかしくはないのだから。
果たして尾行がいるのかどうかわからないまま、サリーは帰途を急いだが、悪天候のためか倒木に遮られてしまう。
追っ手がいると疑心暗鬼のサリーは一刻も早く、倒木の向こう側に行きたかったが、とても車では行けそうにない。
そのとき、倒木の向こう側に車が停止しているのに気づいた。
それも、彼女と同じ型(新車のキャドマス、ハルシオン3000)。
サリーは、運転手らしき男と交渉し、車を交換して無事帰宅した。
もちろん、男とは翌朝、車を交換する約束をして(男の電話番号を書いたメモをもらった)。
サリーには数人の友人がおり、よく一緒に会っていた(が、それぞれの人間関係はなかなか微妙なものがある)。
サリーが尾行者に追われて、車を交換して帰宅したという翌日は、その友人たちがみなサリーのフラットに集まった。
電話番号のメモは雨でにじんでしまって、すっかり読めなくなっていたため、男と車を交換することができない。
友人たちは、サリーが車を交換したことを、嘘ではないかと思っていた。
その疑いを晴らすため、サリーがハルシオンを改める。
彼女のものは何も積まれていなかった。
ただ一つ、後部シートには、レンズ・ヒルの映画館の受付係、ヴァイ・フェザーの死体があるだけだった……。
実は、車の交換シーンが冒頭にあります。
そのことで、サスペンスが高められています。
突然の倒木、失われた逃げ場、そのときたまたま向こう側にあった車が自分とまったく同じ。
よくこんな状況を思いついたものです……。
そして、男の車から、かつての顔見知りの死体。
サリーがレンズ・ヒルから自宅に向かっていたということは、男はレンズ・ヒルに向かって車を走らせていたことになります。
にもかかわらず、レンズ・ヒルの映画館受付係であるヴァイ・フェザーの死体が乗っていた、というのはどういうことなのか。
本当に、公国の追っ手はいるのでしょうか。
冒頭には、「配役」として、主要な登場人物の名前が挙げられ、その中に被害者と犯人がいて、しかも共謀はないと宣言されています。
うーん、しびれる……。
で、圧倒的なパズラーなことに加えて、ロマンティックでもあり、何やら異国での冒険あり、人間関係の裏側に潜む様々な闇あり……詰め込まれています、ぎっちり。
2時間ドラマで再現したら超面白そうなのですが、うまくできるかな……イギリスでないと無理なのかもしれないです。
とにかく読後感が酩酊といった感じで、何が何だかよくわからないので、読み直すことをオススメします。
何冊かブランドを読んでいるのですが、『疑惑の霧』が、内容も展開も全く思い出せないんですよね……どうしたことか……。
読み返してみますか。
あ、ブランド初めての方は、『招かれざる客たちのビュッフェ』を是非とも。
……うちにもあるはずなのですが、どこへ行ったのやら……。