べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『扼殺のロンド』小島正樹

 

扼殺のロンド (双葉文庫)

扼殺のロンド (双葉文庫)

 

 やりすぎミステリ略して「やりミス」の小島さん、『武家屋敷〜』から遡っての、『扼殺のロンド』。

単行本では2010年ということで、もう結構ベテランさんなのですね……いや、最近まで存じ上げなかった私は何をしていたのか……。

 

もう「やりミス」なので、紹介しようとするだけで大変なのですが……静岡県警の刑事である笠木と小沢は通報を受け、ある工場に到着します。

そこで発見されたのは、男女の死体。

2シーターの車の中に残っていた女の死体は、鳩尾から下腹部にかけて切り開かれ、そこいんあるはずの内臓がありませんでした。

一方、男の死体はといえば、重度の高山病の症状を呈しており、しかし発見されたのは海抜300メートル程度。

しかも工場は厳重に施錠されており、車は全部が大破しており外に出ることはできません。

つまり、『二重密室』(と、名探偵役で、『綺譚の島』にも登場する海老原は叫ぶのですが)。

被害者の身元は、由比町の旧家、一族では病院を営むものもいる姉川家の人間だと判明します。

刑事の小沢は、その家の末の娘で18歳の美衣子を、かつて補導したことがありました。

ひどいいじめを受けていて家出した美衣子、その美しい姉倫世。

姉川家の一番上の娘は、治療の施しようのない難病で意識もなく、当主の弟が営む医院で生命を維持している状態。

そんな中、姉川家当主の妻が密室で殺害され、当主もまた倫世のいるアトリエで不可解な状況で死体として発見されます。

そして、多くの死体が実は扼殺されていた……。

 

釣瓶打ち、という言葉がありますが、「やりミス」はまさに謎と奇想の釣瓶打ちですね。

もちろんやりすぎなので、その謎が解いていかれる経過というのがなかなか重要で、うまくプロットを組み立てなければミステリ小説にはなりません(それはそれでいいのだ、という気もします……「リアル脱出ゲーム」的なものに昇華されているのであれば)。

その点で、筆者はとある古典的な……という言い方が正しいのかどうかわかりませんが、名作『◯◯◯の◯◯』でも使われている手法を導入しています。

一族内の連続殺人では、当然ながら徐々に犯人が限定されていくのですが、このとある手法が効いているので終盤までサスペンスが薄れません。

惜しむらく、といいますか、大島田荘司のような大風呂敷をまだ広げるような作風でなかったためなのか、冒頭で発見される極めて異常な状態の死体と二重密室に備わるべき奇想が薄いのが残念です。

ポールポジションをとれなかったけど、最後は優勝した、みたいな感じです。

盛り込まれたネタの数々は、本格ミステリにすれていればすぐにピンとくるものもあったり、「そんなことするかいな」と首をひねるものもあったりしますが、余剰、過剰にも美しさが備わることがある、そんな感想を抱かせる作品です。

ノンシリーズでもいろいろ書いておられるようなので、もう少し読んでみたいと思います。