笠井潔さんがさしてお気に入りかといえばそうでもないのですが、『哲学者の密室』にいたるまでに一応読んでおかねばならんだろう、と思いましたので、ちょっとずつ集めています。
まあ、最初に読んだのが『群衆の悪魔』という時点で、私が笠井潔さんからずれにずれていることはお分かりいただけるかと。
『バイバイ、エンジェル』『サマー・アポカリプス』はちゃんと読んだので、勘弁していただきたい。
本書はご存知名探偵(?)矢吹駆シリーズでして、<アンドロギュヌス>を血の署名を残す殺人犯を追うモガール警視の活躍を描いています(あれ?)。
あ、舞台はフランスです。
一人目の犠牲者(女性)は首なし死体、二人目は両腕がなく、三人目は両脚がない、という状況で発見されました。
その事件とは関係なく、矢吹駆は、宿敵ともいえる<悪霊ニコライ>の足跡を追いかけており、その過程ではからずも、連続殺人の謎を解くことになります。
戦前の女優、対独協力者として世間から追放され、海辺の町で一人命を絶った、大女優ドミニク・フランス。
彼女の作品がテレヴィで連続放送される企画、その夜に犠牲者が出ており、矢吹駆はたまたま、その関連から四人目の被害者の名前を当てたのでした。
そして、被害者たちの共通点が浮かび上がり、あるいは犯人は、パーツを集めるのが目的だったのではないか、という恐ろしい動機が推測されます。
そして、あるいはドミニク・フランスは、死んではいないのではないか……。
なにしろ笠井潔さんですから、重厚。
その割には、ページ数は少なめですし、けっこうサクサク読めます。
情報量は多くて、実はあんまり話を覚えてないのですが……ちょっとサクサク読むことを優先してしまったきらいがありますな……発端の謎として、パーツの欠けた死体がすでに3つある、というのがなかなかフルスイングだと思いました(それだけで1冊書ける気がする)。
そこから、ドミニク・フランスの秘密に迫っていくのですが、何というか、矢吹駆シリーズの通奏低音のようになっている、ある種の悪の存在が、今回はわりと希薄だな、というか。
まあ言ってみればトンデモな役回りを矢吹駆に期待していたのですが、それほどトンデモでもなかったので残念、という感じでしょうか。
本格というのは、「まわりくどくない」ことを、「まわりくどくないんだ」というために、「まわりくどい」ことを書かなければいけないミステリ、でもあったりするので、それがわかっていれば許容できる長さ、情報量だと思います。
そうでない人はまあなかなかしんどいですけれども。
一応『哲学者の密室』は買ってあるので、そのうち読もうと思いますが、積ん読量がねぇ……あんまり読書に時間割けないし(ギターの練習のせいだけど)。
「……ありふれた探偵物語風の臆断は、君の場合どうしても直らないものとみえる。首切りがあれば犯人と被害者の入れ替えトリック、双子が登場しても、結局は同じトリック……。」(p292)
私のことですな。