べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『サルタヒコの謎を解く』藤井耕一郎

 

サルタヒコの謎を解く

サルタヒコの謎を解く

 

 

古代史関連で人気のある神様といったら、ニギハヤヒとサルタヒコではないかと思います。

ニギハヤヒのほうは、物部系の祖神と考えられ、神武東征に絡んでいたり、『先代旧事本紀』でクローズアップされ、やがてアマテラスオオミカミと比較されるような太陽神ではないか、と目されることとなりました(それが正しいかどうかはさておき、ですが)。

一方のサルタヒコは、記紀神話での書かれようから、明らかにクニツカミ系でありながら、アマツカミ系と手を結び、やがて殺されちゃった(と思われる)こと、その描写が後世の「天狗」に似ていること等々、妄想がはかどる感じのおかたです。

本書は、『大国主物部氏』の著者によるサルタヒコ考で、冒頭ではサルタヒコとヤマタノオロチの共通点(よく知られているものではありますが)から、ヤチマタにある神という意味、伊勢や出雲との関わり、サルという言葉に乗せられたイメージの誤解などが書かれています。

一章では、サルタヒコとアメノウズメの睨み合いから、それぞれの邪視(辟邪視/視線にこもる呪力で、洋の東西を問わず存在したと考えられているもの/邪鬼眼的なものではない)の能力、サルタヒコと同一視されることの多い『出雲国風土記』に登場するサタノオオカミ、伏見稲荷大社でうカノミタマの配神と考えられているサタヒコといった、イメージの重なる神々が挙げられています。

特にアメノウズメに関しては、<浮かれ女>(神がかりするシャーマン的存在でしょうか)の原型となり、天岩戸を開くほどの力を持っており、だからこそサルタヒコとの<邪視>対決で勝利した、とされています。

「面勝つ」と表現されたこの<邪視>対決によりアメノウズメはサルタヒコを屈服させたのですが、「おかめ」と呼ばれる面がアメノウズメに原型を求めるという俗説も、「面勝つ(おもかつ)」からの変化、あるいは<浮かれ女(うかれめ)>からの変化ではないかと推測されています(となると、相方である<ひょっとこ(火男)>も、なんらかの意味でサルタヒコと関係しているのでしょうか)。

また、率川神社の「狭井大神」(大神神社摂社狭井神社とも関係する)についても、「サイ」が「サエ」に通じるため、サエノカミ(境界を守り、悪霊の侵入を防ぐ神)ではないかと考えられ、その祭りに使われるササユリの効能、三輪山神話との関係から蛇神とのつながり、と奔放に(同時に、誰もが思いつきそうな方向に)想像力を働かせておられます。

ここから先はさらに自由に、伊勢の伝承や出雲の伝承から、サルタヒコとつながりのありそうなものがどんどん取り上げられていきます(サナダ/狭長田/神稲田、サナギ、サナゲ……サとつながりのある様々なもの、銅鐸分布圏……最後の方では、愛知県の大縣神社田縣神社という奇祭を行う神社も登場します)。

 

宗像教授伝奇考 (第1集) (潮漫画文庫)

宗像教授伝奇考 (第1集) (潮漫画文庫)

 

 

↑のシリーズでは、主人公の宗像教授は一貫して「古代史は鉄との関わり」と考え、鉄文明の移動から様々な仮説を立てていくのですが、本書で語られるサルタヒコの姿は、このシリーズで解き明かされるサルタヒコのものとも重なる部分があります。

それが何巻に書いてあるのかがわかんないんですよね……(いえ、全巻そろっているはずなんですが……出すのが面倒なところにしまいこんでありまして)。

 

この手の話で、考古学的発見を取り入れるのはもはや常識のようになっていますが、地名や神社伝承をあまり高く評価しすぎるのもいかがか、というのが最近の私のスタンスです(長く信じられてきたものもあれば、案外新しいものもある)。

妄想するには楽しいですけれどね。

 

私の中ではシンプルに、サルタヒコはヤマタノオロチと同じく蛇神だったのでは、という結論になっています。

かつてはそんな名前ではなかったでしょうけれども(変えられちゃったのかな……)。

サルタヒコの古い名前がもし分かったとしたらいいんですけれどねぇ……あ、猿とは関係ないと思います。

日本全国、かなり調べられていて、それぞれの地域を別の視点で見てみるという点でも、面白い本だと思います。

ちょいと高いのが欠点でしょうか……。