べにーのDoc Hack

読んだら博めたり(読博)何かに毒を吐いたり(毒吐)する独白

『SHOGUNATE MACABRE』WHISPERED

 

SHOGUNATE MACABRE

SHOGUNATE MACABRE

 

 

メタル、聴いてますか?

何かへんてこりんなメタルを探していたところ、フィンランドのWHISPEREDというバンドが引っかかったので、購入してみました。

予備知識はほとんどなかったのですが、何でも”KABUKI METAL”なのだそうで……カブキロックスとは関係ないですよ(多分)。

ブックレットの中のメンバー写真は、全員白塗りに隈取り、和服姿で日本刀を掲げている、というどこまで本気なのか突っ込みたくなる気分全開。

しかし、よく考えてみれば、日本が誇るHR/HMバンドである聖飢魔IIだって、海外から見たら「どこまで本気なんだよ」と思われることでしょうから、ありかな、と。

サウンド的には、基本的にメロディックデスメタルで、そこに和楽器とか和音階が織り込まれていて、そうですね、「陰陽座」にデスを注ぎ込んでみたらこうなるんじゃなかろうか、という感じです。

 曲のタイトルは、

 

1:Jikininki

2:Hold the Sword

3:Fallen Amaterasu

4:One Man's Burden

5:Kappa

6:Lady of the Wind

7:Unrestrained

8:Upon my honor

 

という感じで、歌詞の内容は「陰陽座」ほどイカれてはいませんが(あんなもん日本人でもそうそう書けない)、「Kappa」とかタイトルにしちゃうセンスがあら素敵。

ツインギター(一人は兼ボーカル)、ベース、ドラムといういたってシンプルなメンバー構成ですが、和楽器はサンプリングでプログラムされているようですので、音自体はかなり分厚く、重いというよりはキンキンしていて、聴いていて心地よいメタルですね(デス声がだめな人にはオススメしませんが)。

何より笑った(いや、失敬)のがですね、日本版ボーナストラックに入っているのがアニメ『銀河〜流れ星銀』のオープニングなのです。

最初、「あれ、どっかで聴いたことがある……」と思いつつ聴き流していたのですが、サビで「run & run」って聴こえてきて、また渋いところをカバーしたものだ……と思っていたら、どうやらフィンランドでは『銀河〜流れ星銀』が大人気なのだそうで(ライナーノーツより)。

何がフィンランド人の琴線に触れたのか……狼犬がクマと戦うシチュエーションかなぁ……絶・天狼抜刀牙かなぁ……(あれ、アニメはそこまで行ってないですっけ……)。

もう一曲のボーナストラックが、『ファイナルファンタジー7』のバトルシーンのインスト、というのも、なんといいますか、渋すぎて震える。

たまにはメタルもね、と思っているかたには、ちょっとオススメです。

 


WHISPERED - LET THE BATTLES BEGIN! (FFVII COVER)

 

『悪霊にさいなまれる世界』カール・セーガン

 

悪霊にさいなまれる世界〈上〉―「知の闇を照らす灯」としての科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

悪霊にさいなまれる世界〈上〉―「知の闇を照らす灯」としての科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 
悪霊にさいなまれる世界〈下〉―「知の闇を照らす灯」としての科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

悪霊にさいなまれる世界〈下〉―「知の闇を照らす灯」としての科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

著者のカール・セーガン氏は、小説『コンタクト』(映画化もされましたね)で著名なかただそうで。
いえ、よく知らなかったもので。
本書は意味深なタイトルですが、ニセ科学などを信じやすい現代に対して警鐘を鳴らす目的で書かれています。
ニセ科学というのは、定義が難しいですが、疑似科学とかトンデモ説とか、まあそういったものです。
これらを「悪霊」と称して、人々がそういったものに流れてしまいがちなことを憂いている、と。

 


実際、大好物ですけれどもね(信じているかどうか、はまた別で)。

 


上下巻の長い読み物ですが、科学の知識はそれほど必要ではありません(セーガン氏がわかりやすく解説してくれます)。
とにかく、UFO、宇宙人、超常現象、超心理学、カルト宗教、陰謀論、現代の魔女狩り……といったものをばっさばっさと快刀乱麻を断つごとく切り捨てていきます。
爽快ですらありますね。
で、自分がどちらかといえば科学的思考を手放したがる人間なのだな、ということが自覚できる、と(自覚したところで、それを受容して、有用しなければ意味はありませんが)。

 

「市民が監視をおこたり、科学教育の手がゆるめられれば、そのたびに新たなニセ科学が吹き亜dしてくる。こうした状況を、レオン・トロツキーヒトラー台頭前夜のドイツを舞台にこう描き出した(だが、一九三三年のソ連にも当てはまるのではないだろうか)。

 

農村の家々ばかりか年の摩天楼においてさえ、そこには二十世紀といっしょに十三世紀が息づいている。一億人が電気を使いながら、今なお神のお告げや悪魔祓いといった魔力を信じているのだ。映画スターは霊媒師を訪ね、飛行機操縦士は、人間の才知が生んだ奇跡のメカニズムを操りながら、一方ではセーターに魔除けのバッジをつけている。人々の心の中には、暗黒、無知、野蛮がなんと無尽蔵に宿されていることか!」(上/p49)

 

ニセ科学は、誤りを含んだ科学とはまったく別のものである。それどころか、科学には誤りがつきものなのだ。その誤りを一つずつ取り除き、乗り越えてゆくのが科学なのである。誤った結論は毎度のように引き出されるけれども、それはあくまでも暫定的な結論でしかない。科学における仮説は、必ず反証可能なようにできている。次々と打ち立てられる新たな仮説は、実験と観察によって検証されることになるのだ。科学は、さらなる知識を得るために、手探りしつつよろめきながらも進んでいく。もちろん、自分が出した仮説が反証されれば嬉しくはないのだけれども、反証が挙がることこそは、科学的精神の真骨頂なのである。」(上/p57)

 

「科学は単なる知識の寄せ集めではなく、一つの思考様式だからだ。」(上/p64)

 

「科学者は誰しも、自分のアイディアや発見に深い愛情を感じているものだ。それでも科学者は批評者に向かって、「ちょっと待ってくれ。これは本当にいいアイディアなのだ。私はこのアイディアをとても気に入っているのだ。ああたに迷惑はかけない。頼むから放っておいてくれ」と言ったりはしない。そう言う代わりに、科学者はつらいけれども公正なルールに従う。そのルールとは、うまくいかないアイディアは捨てるということだ。うまくいかないアイディアに頭を使ってもしかたがない。そんな暇があったら、新たなアイディアを生み出し、データをよりよく説明できるようにすべきなのだ。」(上/p77)

 

「それにしても、物理学や工学の分野ではあんなに進んでいる異星人が(なにしろ広大な宇宙の間を行き来し、まるで幽霊のように壁をすりぬけられるというのだ)、いったいどうして生物学の分野ではこんなにも遅れているのだろうか。秘密裏にことを進めようとしているのなら、なぜ誘拐した者の記憶をきれいに消しておかないのだろう。それとも記憶の抹消は、彼らにとってもむずかしいことなのだろうか。どうして彼らの検査器具はあんなに大きくて、しかもそこらの病院で見かける器具とやけに似て居るのだろう。どうして性交などというめんどうなことを何度もやるのだろうか。卵子精子の細胞をちょっと失敬して、遺伝コードを解明し、好みにあう遺伝子を好きなだけコピーすればよいではないか。まだ宇宙を高速で飛び回ったり壁をすりぬけたりなどできない地球人だって、細胞のクローンぐらいなら作れるのだ。」(上/p130)

 

「人類の歴史には、これと同じような例がたくさんあるーー出所のあやしげな文書が突然見つかり、発見者の立場を強力に支持するような重要な情報がもたらされるのだ。しかし、入念に、ときには勇敢に調べてみると、その文書は偽作であることが判明する。」(上/p177)

 

「ひょっとしたら、異星人がもっている知識は、異星人がいることを報告した人と同じレベルなのだろうか?」(上/p192)

 

「私は一九六〇年代の初めごろに、UFO話はおおむね宗教的願望を満たすために作られたものだろうと言ったことがある。」(上/p244)

 

ジャンヌ・ダルクもジロラモ・サヴォナローラも、幻視を見たために火刑に処されたのである。」(上/p269)

 

「FBIは、悪魔崇拝による虐待について、きわめて懐疑的な見解を示す報告書を作成した(ケネス・V・ラニング『「儀式」による児童虐待の訴えに関する調査官の手引き』 一九九二年一月)。しかし、悪魔教の存在を熱心に唱える人たちは、おおむねこれを黙殺した。」(上/p299)

 

「そのうえコマーシャルは、まずいことには口をつぐむ。」(上/p377)

 

トマス・ジェファーソンジョージ・ワシントンも奴隷を所有していた。アルベルト・アインシュタインもモハンダス(マハトマ)・ガンジーも、夫として、遅々として完璧ではなかった。この調子でリストはいくらでも続けられるだろう。われわれはみな、欠点を抱えた時代の子なのだ。未来の基準でわれわれを裁くのは、果たして公平なことだろうか?」(下/p84)

 

「科学が、あれはできない、これもだめと枠をはめてくるのは、実にいまいましいことだ。そのうえ科学は、原理的にさえできないことがあると言う。いったい、光よりも速くは動けないなんて誰が言ったんだ?」(下/p103)

 

「くりかえすが、こんな嘘なら社会のためになるとか、こういう事実は隠した方がいいなどと判断を下せるほど、われわえrは賢くはないのだーーましてや、その長期的な影響など知るべくもないのである。」(下/p120)

 

「とはいえ、どうしても否定できないことが一つある。それは、中世の迷信から近代科学へと移行するにあたって中心的役割を果たした人たちが、唯一絶対神という観念に深い影響を受けていたということだ。」(下/p175)

 

「単純素朴な質問もあれば、退屈な質問もあるし、要領を得ない質問もあれば、思いつきまかせの質問もあるだろう。しかしどんな質問でも、それは世界を理解したいという心の叫びなのだ。くだらない質問などというものはないのである。」(下/p194)

 

「自分と異なる意見を聞き、中身のある議論をする機会があれば、人は自分の考えを変えることができる。」(下/p389)

 

「教育水準が下がり、知的能力が弱まって、中身のある討論が求められず、世間が懐疑精神の価値を認めなくなれば、自由は少しずつ削り取られ、権利が侵されることにもなりかねない。」(下/p394)


世界的に、妙な方向に向かっているのですが、時代の反動みたいなものかもしれないので仕方ないです。
「ポスト真実」とかいうものが、ネットに乗っかって拡散し、政治家にまで影響を与えるような時代なのです。
本書に書かれている「トンデモ話の見分け方」を意識していれば、そういったものに踊らされることも少ないのでしょうけれども。
未だ大部分の人間は科学的思考に到達できていませんし、全ての人間がそうなるわけでもありません。
科学的なるものによる格差も生じる時代がくるかもしれないです。

 

ところで、自説を捨てられず身を滅ぼしていった科学者という人たちは結構いたりしますが、そういう人の中には本気でそう思っていた人たちが幾分か混じっているのだと思います。
その人だけに見える、聞こえるものがあるのです(それを幻視、というならそうなのでしょうが、脳がそのように機能してしまう可能性があります)。
残念なことに、その人にだけ、なので、普遍化、一般化ができません。
しかし、科学者とはいえ、自分が感じる世界が、他人の感じる世界と異なっているかもしれない、という可能性に思い至るのは難しいのかもしれません。
まあ、最近は脳科学も発達してきていますし、そういったものも解消されていくのかもしれないですね。
このあたりは京極夏彦先生にお任せします(?)。
妖怪や〜い。

最近の漫画読み

そんなに読んでないなぁ……と思いつつ。

 

 

 

『エグゾスカル零』も嫌いではなかったですが、こっちのほうがなんか好き。

 

 

キン肉マン 57 (ジャンプコミックス)

キン肉マン 57 (ジャンプコミックス)

 

 

清く正しく『キン肉マン』。

文句はありませぬ。

 

 

 

もうバンダイサンライズは、長谷川さんにアニメを作らせてあげちゃったほうがいいと思うんだけども。

『クロスボーン』って、もう正史なんでしょ?

 

 

りふじんなふたり 2 (バンブーコミックス)

りふじんなふたり 2 (バンブーコミックス)

 

 

松田円先生は心の癒しです……ああ。

 

 

プ~ねこ(6) (アフタヌーンKC)

プ~ねこ(6) (アフタヌーンKC)

 

 

よかった、連載してた……昨今の猫ブームの先駆け的漫画です(嘘)。

北道先生は大好きです。

『ぽちょむきん』も。

 

 

 

そういえば、読んでいました。

どうやら、もっと続きが読めそうです。

るろうに剣心』も、幻の北海道編が読めるようなので、いろいろとぐるりと一周した感じですかね。

 

 

BLEACH―ブリーチ― 74 (ジャンプコミックス)

BLEACH―ブリーチ― 74 (ジャンプコミックス)

 

 

……結局ハリベルたんの出番なし。

いや、全部きっちり回収してほしい、というわけではないんですけどね……なんか、こう、テッリーマン的な解説の人がいらっしゃらないと……最後の公式ファンブックとか、小説とか待ちますか。

 

 

ワールドトリガー 17 (ジャンプコミックス)

ワールドトリガー 17 (ジャンプコミックス)

 

 

療養中だそうで、葦腹先生。

復活してくれないと、『ジャンプ』で読むものなくなるなぁ……ああ、『左門くんはサモナー』があった。

『鬼滅の刃』も、最初と違って期待できそうだし。

『ジャンプ』も新時代ですねぇ……『ボルト』はどうなんだろうねぇ。

 

 

 

まあ、しょうがないですよね好きだから……。

シリアスも混じりつつ。

 

 

御手洗潔@星籠の海(2) (ヤンマガKCスペシャル)

御手洗潔@星籠の海(2) (ヤンマガKCスペシャル)

 

 

ちゃんと終わっていました。

うーん……やっぱり、原作の荒唐無稽さが愛おしい(「星籠」の象徴的な部分とか、漫画や映画ではなかなか見えてこないので……)。

でも、次は『斜め屋敷』を映像にしてくれることを祈っています。

しないって?

 

今年の話題は、『ファイブスター物語』の連載がちゃんと続いていることかしらね……そろそろ単行本作業でしょうか。

漫画喫茶も功罪ありですよね……まあ昔からかな……使用料とか取れないのかね、実際。

CDとかみたいに、レンタルまで時間がかかるようにするとか……無理か。

いえ、クリエイター側にきちんとお金が入らないようなシステムは、結局我々の希望する新しい創造物の誕生を阻害するのではないか、と思ったりしちゃうので。

やれやれです……。

 

来年もよろしくお願いします。

『黙示録の種子』ジェームズ・ロリンズ、グラント・ブラックウッド

 

〈シグマフォース外伝〉タッカー&ケイン シリーズ1 黙示録の種子 上 (竹書房文庫)

〈シグマフォース外伝〉タッカー&ケイン シリーズ1 黙示録の種子 上 (竹書房文庫)

 
〈シグマフォース外伝〉タッカー&ケイン シリーズ1 黙示録の種子 下 (竹書房文庫)

〈シグマフォース外伝〉タッカー&ケイン シリーズ1 黙示録の種子 下 (竹書房文庫)

 

 

ロリンズ祭り。

今回の主人公は、<Σフォース>シリーズに登場した、元陸軍レンジャー部隊のタッカー・ウェインと、彼の相棒である軍用犬ケイン。

<Σフォース>のスピンオフなのです。

というわけなのかどうなのか、共著としてグラント・ブラックウッド氏が加わっています(トム・クランシーなんかとの共著があるようで)。

もともと獣医であるロリンズ先生、その科学的視点が物語に深みと彩りを添えているのはもちろんのこと、(ほぼ)毎回動物が登場し、いろいろと重要な役割を担ったりします(もっぱら敵として、ときどき味方として)。

そんな中でも、『ギルドの系譜』に登場したケインは、軍用犬としての能力、タッカーとの共感力、千を越える語彙を理解し、忠実に、誠実に狩りを行う、萌え萌えな犬なのです。

猫派の私ですが、こういうのを読むと犬もかわいいなあと思います。

 

ストーリー自体は、いつもの通りの<Σ>なのですが、外伝扱いなのは<Σ>の隊員がほとんど出てこないからでしょう。

特に、本編の主人公グレイソン・ピアーズが出てこないのが大きいかと。

軍を抜けて世界を放浪しているタッカーはたまたまロシアで用心棒的な仕事をしていたところ、運悪くペインター・クロウに見つかって(<Σ>は世界中のどこにも情報源を持っているらしいので)、ある仕事を頼まれます。

ロシア当局に追われている科学者を国外に脱出させるだけでいい、という、<Σ>のいつもの案件に比べれば簡単そうな話です。

というか、あれですねあれ、『メタルギアソリッド』みたいですよね。

最新作には相棒になる犬が出ていたような気がします(難しいゲームはプレイできませんです)。

こっちには大型機動兵器は出てきませんが。

おっと、軌道修正。

どうやらその科学者は、生物の起源に関する重要な発見をしたらしく、それはアフリカで、ボーア戦争時代にとある医者が発見したものらしく……ボーア戦争とかオレンジ自由国とか、受験以来聞いた気がします……「アルザマス16の将軍」たちがそれを追っているらしく、ついでに美人のスウェーデン人傭兵にも狙われるらしく(狙撃手です……モシン・ナガンは持ってないですが)。

そういえば、<Σ>の隊員のハーパーという女性がタッカーに協力するのですが、通信でしかやりとりがないので、『メタルギアソリッド』のパラメディックみたいでした。

うーん……いやいや、小島氏がアメリカの軍関係の情報に精通している、ということなのでしょう(ロリンズ先生が『メタルギアー』をパクる理由がないですからね)。

日本のファンは、そんな感じでも楽しめると思います。

内容は、まあいつも通り、最新科学と、歴史とが絡まりあって、世界の危機を救う、というやつです。

そういう意味では<Σ>のパターン。

敵方に手強い女性がいるのもパターン。

軍用犬のケインがいる、というスパイスが、さて<Σ>との違いを出すのに効果的なのかどうなのか。

あ、作中にデクラークという人物が出てきますが、スレイドの<カナダ騎馬警察>シリーズに出てくる人とは多分関係ありません。

 

 

「「アジトに向かっているところだが、そこには人がいるのか?」タッカーは訊ねた。要求した物資はできるだけ早く確保した方がいい。

「いないわ。アパートの部屋よ。私が教えた番号に電話をかけ、呼び出し音を三回鳴らしたら切る。それからもう一度電話をかけ、今度は二回鳴らして切り、十分間待つ。そうしたら扉のロックが解除されるわ。中にいられるのは五分間だけ」

「おいおい、冗談だろう?」

「簡単なのがいちばんよ、タッカー。襟の折り返しに花を挿して公園のベンチに座っている靴紐がほどけた人を探すよりも、この方がずっと簡単だわ」

確かにその通りだ。兵士がいつも心がけているのはKISSーーKeep It Simple, Stupid(簡単にしろ、馬鹿者)の頭文字だ。」(上 p190)

 

 

「「頑固なやつだな」タッカーは言った。

「母からもよく同じことを言われます。『やつ』という言葉は使いませんけど」」(下 p89) 

 

 

『ギルドの系譜』に出てきたときは、もうちょっと陰気なキャラだと思っていたんですが、結構明るいですタッカー。

あと、やってることが<Σ>の隊員数人分の活躍です。

やりすぎ。

まあ、一人と一匹だから……しょうがないのか。

『ドミノ倒し』貫井徳郎

 

ドミノ倒し (創元推理文庫)

ドミノ倒し (創元推理文庫)

 

 

 

「俺、貫井(つらい)さん、ちょっと読んでるんだよねぇ」

「へえ。でもその人、「ぬくい」って読むんだぜ?」

 

 

でおなじみの(?)貫井徳郎氏の一冊。

すいません、『慟哭』も『プリズム』も読んでいません(じゃあ何を読んでいるのか)。

タイトルに惹かれて手に取ってみまして、読んでみたら何でしょう、全く違った感想を持った一冊でした。

最初は、いろいろな事件が連鎖的に起こる、連続殺人ものなのかな、と思っていたのですけれども、そうでもなかった。

本格なのか、ハードボイルドなのか、コメディなのか。

おおむね、コメに力を振り分けているような気がしますが。

 

月影市で探偵を営んでいる十村のところに、亡くなった恋人の妹がやってきて、友人のストーカー疑惑、さらには殺人事件の容疑を晴らしてほしい、と依頼を持ちかけます。

弁護士にでも頼めばいいところですが、どうやら恋人の妹、いや月影市の全員が、警察の月影署の署長をしているキャリアと十村が友人であることを知っているらしいのです。

その個人的なコネが、友人の疑惑を晴らすのに使える、と恋人の妹は思っていたようで。

ハードボイルドを一応気取っている十村としては、拍子抜けした気分ですが、探偵としての実績はないので、他にとるべき方法もありません。

署長に連絡を取ると、力は貸してやるから、十村にいろいろと調査をしろ、と依頼してきます。

どうやら署長は、現場の刑事のように聞き込みなどをしてみたいようですが、それが叶わず暇を持て余している様子。

ギブアンドテイク、で十村は調査に乗り出します。

そうこうしているうちに、容疑者である、恋人の妹の友人が、殺人事件の被害者の幽霊を見た、と言い出すし。

未解決の殺人事件があるらしいし。

刑事にはいたぶられるし。

いろいろあって、かつて恋人が「月影は恐ろしいところだ」と言っていた意味を噛みしめることになるのでした……。

 

うーん、面白かったです。

文章がうまいのでさくさく読み進められますし、ハードボイルドの基本が抑えられているので(そのパロディ具合も)面白いですし、徐々に謎が混迷していくところなんかはサスペンスフルですし。

面白いんです。

で、最終的に、これどうやって落とすのよ、と思っていたら、まさかの「アレ」だったという……「アレ」に言及するとあっという間にネタバレするのでやめときますが、このオチに最初は愕然としました。

拍子抜けというか。

むむ……しかし、改めて読み返してみると、きちんとその線に沿ってプロットが構築されています。

展開も不自然ではない。

何より、「なんでそんなことする必要があったの?」に対する説明がばっちり。

無理はあっても破綻はない。

うん、やっぱり面白い。

面白いんですが……貫井さんに期待していたものが違ったのかなぁ……やっぱ『慟哭』か『プリズム』を読まないとだめな気がしてきました。

どっちがいいんだろう……『慟哭』の評判が非常に高いのですが、テーマ性が高いと個人的にあんまり入っていけないもので……いやしんどくて……おいおい。

 

 

「「いえ、特に何も。もう捜査は打ち切られたのではないかとすら疑っています」

さすがにそんなことはないと思うが、事件発生直後の熱意が薄れているのは間違いない。やる気を失った警察よりは、おれの方が遥かに有能なはずだと意を強くした。」(p82)

 

あんまり引用するとからくりがばれちゃいそうです。

あ、本記事冒頭のやりとりは、実際にあった私と友人との会話で、私が大いに恥をかいた場面です。

今でもときどき「つらい」さんと読んでしまいます、「ぬくい」さんです。